茨城県つくば市は、不登校の子どもたちの支援として新年度から東京の教育関連会社にフリースクールの運営を委託する方針ですが、地元の認定NPO法人が運営している現在のフリースクールについても保護者などから存続を求める声があがったため、2つの施設が運営されることになりました。
なぜ市が方針を修正することになったのか、その一連の経緯から読み取れることは何か、取材記者が解説します。
(NHK水戸放送局 三輪知広記者)
【経緯は】
まずは、経緯を整理します。
つくば市は、不登校の小中学生を支援するため、おととし10月から、認定NPO法人にフリースクールの運営を委託しました。市の中心部に設置して、有効性があるかを検証する事業でした。
今年度は約40人が通っていて、市は一定のニーズがあるとして、新年度から本格実施に踏み切ることにしました。
本格実施にあたり、市はフリースクールの事業者を、一から選定する作業を進めました。新規事業として、まとまった額の予算を使うため、必要な手続きだと説明しています。事業者の選定が行われたのは、去年12月。公平性、透明性を重視するため、実績や価格などを総合的に評価して決める「プロポーザル方式」で実施されました。この結果、最も評価点数の高かった教育関連会社が選ばれました。一方、いまのフリースクールを運営するNPO法人も応募しましたが、点数が及ばず選ばれませんでした。
選ばれたのは、どんな会社で、どんな事業をおこなっていくのでしょうか。つくば市は、会社と契約前であることを理由に、3月30日現在、会社名を公表していません。しかし、関係者によりますと、選ばれた教育関連会社は東京に本部があり、家庭教師や個別指導塾を全国に展開。すでに、ほかの自治体で不登校の児童・生徒の支援事業を実施しているということです。
市は、いずれにしても選定過程に不公正な点はなかったとしています。
【どこに問題があったのか】
では、なぜ市は当初の方針を修正することになったのでしょうか。
ポイントは、フリースクールを利用する子どもたちや保護者に、事業者が変わる可能性があることが十分説明されていないまま、進められていたことにあります。
事業者の変更が、現在のフリースクールに通う子どもたちや保護者に、市から伝えられたのは今年の1月上旬。しかし、この段階では教育関連会社の名前も伏せられ、どのような活動をするのかも明らかにされなかったといいます。
このため、フリースクールの環境や人間関係に安心感をもっていた子どもたちと保護者の不安が高まったのです。
(フリースクールに子どもが通う熊倉恵子さん)
「慣れ親しんだ環境やスタッフが 変わってしまうと、それだけで行けなくなったり、家に閉じこもってしまったりする子どもがいる。結びつきがあるスタッフとの関係を断ち切らないでほしいという気持ちが、すごく強かったです」
(フリースクールに通う中学生)
「ほかのフリースクールに通ったこともありましたが、活動の内容などになじめませんでした。スタッフの人が親身になって学習面のサポートだけでなく、興味のあることを追求させてくれるので将来の目標も見つけることができました。事業者が変わるかもしれないと聞いて、今後どうなるのか心配でした」
保護者は1月中に、市長や教育長などに、事業の継続を求めて陳情書を提出しました。
ここに至って、市は事態の重要性を認識。事前の説明や意見交換が不足していたとしたうえで、フリースクールの子どもたちと保護者の不安を取り除くことが重要だと判断。すでに事業者として選定した教育関連会社と、これまで運営しきたNPO法人のそれぞれに、いずれも2145万円で運営を委託することにしました。新年度は2つの施設を運営することにしたのです。
(フリースクールに子どもが通う熊倉恵子さん)
「継続が決まり安心しています。子どもの声を最優先に、不登校の支援事業をどうしていくのか、みんなで話し合えるようにしてほしい」
環境やスタッフが変わることの子どもたちへの影響の大きさに配慮が十分にできていなかったことが、子どもたちと保護者の不安を高めてしまう結果となったといえます。
子どもの心理に詳しい筑波大学の藤生英行教授は、受け入れる施設があればいいというものではなく、子どもたちのさまざまな特性に対応できるスタッフの力量や、プログラムが重要だと指摘しています。
(筑波大学人間系 藤生英行 教授)
「不登校の改善または不登校の悪化には、人との関係性がとても重要な役割を果たすとされています。担当がどんな人に替わるかが分からないとか、そういう不安をあおるような状況があったことは、非常に残念に思っています」
【ニーズは?】
このように、つくば市のフリースクール事業で、結果的に2つの施設が運営されることになったことで、これまでの市の支援計画との整合性がとれるのかとか、ニーズはあるのか、という疑問もでてくると思います。
今年度、NPO法人が運営しているフリースクールの利用者は約40人です。ただ、つくば市は、市内でフリースクールを必要としている不登校の児童・生徒は100人程度いるとしています。新年度の2つの施設の定員は、それぞれ40人のため、市は、施設が2か所あったほうがニーズに応えられるとしています。そのうえで市は、2つの施設が持つそれぞれの強みをいかした運営が期待できるとしています。
【今後に向けて】
今回、方針変更まで混乱も生じましたが、大切なのは、この経験が子どもたちの今後の支援にいかされることだと思います。
今回のケースを踏まえて、市は、当事者や事業者などと意見を交わす場を設置する方針です。
筑波大学の藤生教授も、検証の重要性を指摘しています。
(筑波大学人間系 藤生英行 教授)
「これから、果たしてどうだったかを逐一検証していく必要があると思います。かつ、今後様々な関係者が集まって、不登校支援のプログラムをきちんとチェックできる機能がしっかりできると、お子さんたちにはいいことだと思います」
今回、行政は予算を執行するための手続きを適切に実行しようとしたのかもしれません。しかし、当事者の思いが置き去りされたまま進められてしまいました。行政が当事者に寄り添いながら、よりよい支援策を作り上げていくことの重要性を示しているのではないでしょうか。
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からの記事と詳細 ( つくば市 フリースクール2施設運営へ 経緯と見えたもの|NHK 茨城県のニュース - nhk.or.jp )
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