2020年2月26日、米ノースロップ・グラマンの関連企業スペースロジスティクスは、高度約3万5800キロメートルの静止軌道で無人の人工衛星どうしをドッキングさせ、推進剤を補給する実証に成功したと発表した。打ち上げから年数が経ち、機能には問題はないものの推進剤が尽きて役割を終えようとしている衛星を再生させることができる。
スペースロジスティクスが開発した「MEV-1(ミッション・エクステンション・ヴィークル-1)」は、2019年10月9日に打ち上げられた軌道上サービス衛星。軌道上サービスとは、ロボット機能を備えた衛星が軌道上で他の衛星に推進剤を補給する、修理する、軌道を変更させるなど元の衛星が持っていない能力を提供するものだ。
高度約3万5800キロメートルの静止軌道は、地球の自転速度と同じ速さで赤道に沿って人工衛星が周回でき、地表から見れば常に同じ位置に衛星がいるように見える軌道。この性質を利用し、地上のある地域に通信放送サービスを届ける商用衛星や気象衛星などが多数利用している。
地上へのサービスにとって好都合な軌道とはいえ、地球観測衛星や国際宇宙ステーションなどがいる地球低軌道(高度1000キロメートル以下)より遠いため、静止衛星の打ち上げには大型のロケットを必要とする。近年は衛星自身の大型化により、推進剤を多く搭載して軌道上でのミッション期間を15年ほどに伸ばし、打ち上げにかかったコストを回収できるような設計の衛星が多かった。
静止衛星が軌道を修正するための推進剤を使いつくした後は、いわば使い捨てとなる。役割を終えた静止衛星を最後の推進剤を使ってさらに高度を上昇させ「墓場軌道」と呼ばれる軌道へ移動していた。
衛星の機能そのものには損耗が少なく、推進剤がなくなっただけ、という場合も多い。高価な衛星がより長く働けるよう、MEV-1は推進剤を補給して衛星の寿命を伸ばす役割を持った実証機だ。ターゲットは多数の通信放送衛星を運用する米インテルサットの「Intelsat 901 (IS-901)」衛星だ。2001年に打ち上げられ、南北アメリカ、大西洋、欧州とアフリカ地域向けに通信機能を提供していた。
MEV-1は2019年秋の打ち上げ後、静止軌道から約290キロメートル上の墓場軌道付近で待機していた。IS-901は12月から残る推進剤を使ってMEV-1の近くへ移動し、待機していた。
MEV-1は半自律型のドッキング装置を備え、レーザー距離計などを使用してターゲットを認識、接近する。2月25日16時15分(日本時間)、ついにドッキングに成功した。現在は2機がつながった状態となっており、機能点検を経てIS-901は3月末に静止軌道での新たなミッションを開始する予定だという。推進剤補給によってIS-901は新たな5年のミッション延長が可能になった。MEV-1は最大で15年分のミッション延長用推進剤を持っており、あと数回、他の衛星にドッキングして推進剤補給が可能だ。
こうした軌道上での衛星どうしの自律的なドッキングは、1997年にNASDA(現JAXA)が打ち上げた技術試験衛星「きく7号(ETS-VII)」でランデブー・ドッキング実証機「おりひめ」「ひこぼし」が成功させている。きく7号のドッキング実証は高度約550キロメートルの低軌道であり、静止軌道で自律的なドッキングに成功したのはMEV-1が史上初となる。
インテルサットは2018年にMEV-1と同様のミッション延長機能を持つMEV-2による新たなミッション延長の契約をスペースロジスティクスと結んでおり、MEV-2は2020年中に打ち上げられる予定だ。推進剤補給だけでなく、衛星の故障した部分を軌道上で点検、修理したり、新たな機器を組み立てたりといった軌道上サービスの構想もある。衛星を使い捨てにせず、再生して長く利用することが可能になった。
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February 28, 2020 at 06:50AM
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