[東京 16日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は16日、金融政策決定会合後の記者会見で、足元の物価は下がり方がやや遅いとの認識を示す一方で、物価目標達成の判定には見通しの中心値だけでなくその確度もあわせて行うと述べた。市場でくすぶる長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正観測に対しては、経済・物価の見通しや市場機能への副作用に関する考え方などを丁寧に説明していくと述べた。
<拙速な金融正常化に改めて警戒感>
日銀は物価について、今年度半ばにかけてプラス幅を縮小するとの見通しを改めて示したが、植田総裁は、足元の物価は下がっている局面にあるが、下がり方がやや遅いと話した。食料品、日用品、一部サービスの宿泊料が想定より少し高いと指摘。食料品や日用品は価格転嫁の動きが思ったより強い印象だが、もう少し分析してみたいと述べた。
次回7月の決定会合では展望リポートを議論するが、2023年度の物価見通しを上方修正するかが焦点の1つになる。
植田総裁は物価目標達成の判断について、基調的なインフレ率がどうなるかが重要だとし、見通しの中心値だけでなくその先の確度も含めて判断する考えを示した。見通しの確度が非常に重要になる時期には「特に念を入れて説明したい」と述べた。
その上で、基調的なインフレ率の上昇を待って金融緩和を継続することが、先行き過大なインフレにつながってしまうリスクがゼロではないものの、拙速に金融政策を正常化した場合、目標に達する前にインフレ率が下がってしまうリスクもあると話し「目標を達成せずに(物価が)下がっていってしまった方が政策対応は難しい」と語った。
<YCC修正の判断>
YCC修正の判断について、YCCを継続した場合の効果と副作用を比較して行うと改めて説明した。現時点で市場機能は改善しているが、物価の見通しや海外の金利が動いた時、長期金利がこのままというのは必ずしも言えないと語った。市場とのコミュニケーションについて、1つの決定会合から次の決定会合までに得られたデータや情報をもとに政策を決めていくため、「ある程度のサプライズが発生するということもやむを得ない」とも述べた。
外為市場ではドル/円が141円台まで上昇するなど、再び円安傾向が強まっている。植田総裁は円安でプラスの影響を受けるセクターとマイナスの影響を受けるセクターの両方あるが、為替レートは「ファンダメンタルズに沿って安定的に動いていくということが重要」だと述べた。
<賃金ではなく物価に政策を紐づけ>
日銀は4月の決定会合で金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)を修正し、賃金上昇を伴う形で2%物価目標の達成を目指すことを掲げた。ただ、植田総裁は「賃金の目標を持って、それが達成されたら政策対応とは考えていない」と述べ、「あくまで物価目標に政策を紐づけている」と説明した。
フォワードガイダンスについては、金融緩和を保つ約束であるにもかかわらず「物価がオーバーシュートした後も続けることになりがちだ」と指摘。物価上振れ時には取り扱いを検討する余地があるとの見方を示した。
<多角的レビュー、非伝統的政策の効果・副作用など分析>
日銀は植田総裁のもとで初めて行った4月の決定会合で、1990年代後半以降の金融緩和策を対象に1年から1年半程度かけて多角的にレビューを行うと決めた。
植田総裁はこの日の会見で分析テーマを改めて説明。非伝統的金融政策手段の効果について、それぞれの時点における経済・物価情勢との相互関係の中で理解するとともに、副作用を含めて、金融市場や金融システムに及ぼした影響についても分析したいと語った。
総裁は、90年代以降の経済のグローバル化や国内の少子高齢化といった環境の変化が、企業・家計の行動や賃金物価形成メカニズムなどに及ぼした影響などについても理解を深めると述べた。
レビューでは既存の調査やサーベイを活用するほか、本支店でのヒアリング調査や金融経済懇談会での意見交換などの知見を取り入れていく。学者や専門家を招いたワークショップも開催する。来月中をめどに日銀のウェブサイトにレビュー専用のページを設け、順次掲載していくとした。
(和田崇彦、杉山健太郎 編集:石田仁志)
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