[11日 ロイター] - 世界的な危機に際して真っ先に売られがちなイタリア国債が、最近の銀行危機においては無風で、それどころか他の欧州国債より堅調に推移するという珍しい状況になっている。
世界で最も債務比率の高い国の1つであるイタリアの国債は、その代償として利回りがドイツの約2倍となっており、南欧のリスクを代表する資産とみなされている。
しかし米地銀2行の破綻やクレディ・スイスの救済劇の渦中でも、イタリアは良好な経済・政治見通しに守られて安定して推移。イタリア10年国債利回りは年初に比べて60ベーシスポイント(bp)低下した。
イタリア国債の年初からこれまでの投資リターンは4.1%と、ユーロ圏全体の2.9%を大幅に上回った。
格付けの高いドイツ国債との利回り格差は185bpで、過去の世界的な危機時のピークを大幅に下回っており、3月初頭からほとんど変わっていない。
アリアンツ・グローバル・インベスターズの上席債券ポートフォリオマネジャー、マイク・リデル氏は「ドイツ国債に対するイタリア国債のスプレッドは、悪い事が起こるリスクを少しも織り込んでいない水準だ」と話した。
昨年9月の選挙でメローニ首相の右派連合が勝利した当初は、極右とされる経歴や激しい言葉遣いが投資家の懸念を誘った。
しかし首相就任後にトーンが穏やかになると、そうした懸念は和らいだ。支出拡大と減税を組み合わせた予算も欧州連合(EU)の承認を獲得し、経済成長率は予想を大幅に上回っている。2023年の成長率目標は従来の0.6%から1%に上方修正される見通しだ。
しかし、今後はリスクが控えている。第1に、先行きの成長見通しには変化が生じており、2024年の成長率予想は昨年11月時点の1.9%から1.4%に下方修正する予定となっている。
この背景には、欧州中央銀行(ECB)による利上げの影響に加え、新型コロナウイルスで落ち込んだ経済を助けるためのEU「復興基金」の確保に苦慮していることがある。
EUはイタリアへの拠出を約束した復興基金のうち190億ユーロ(205億ドル)分について、実行条件となる目標達成の詳しい説明を求め、支払いを凍結している。
目標達成が大幅に遅れるようなら中期的な成長見通しが悪化し、イタリアの格付けが悪影響を受けると、ドイツを拠点する格付け機関スコープ・レーティングスは指摘している。
ECBがインフレ抑制のために利上げを積極化した場合にも、ユーロ圏でギリシャに次いで大きいイタリアの債務を巡る懸念が再燃しかねない。
ユニオン・インベストメントのシニア・ポートフォリオ・マネジャー、マーティン・レンツ氏は、現在3%のECB政策金利が市場予想より高い4%に上昇し、その水準にとどまり続けるなら、そうした懸念が戻ってくる恐れがあると述べた。
銀行セクターの混乱により、世界的な景気後退リスクも高まっている。
JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・アグリゲート・ストラテジーズ責任者、マイルズ・ブラッドショー氏は「景気後退が視野に入ると、縮小気味になっているスプレッドは拡大方向に転じるだろう」と語った。
<投資家は冷静>
現在のところ、投資家は冷静だ。
ECBが昨年導入した「伝達保護措置(TPI)」が信頼感につながっている面がある。これは、自国の落ち度以外の理由で市場から攻撃を受け、スプレッドが拡大している国債をECBが買い入れる措置だ。ただ、どのような条件下でECBがTPIを発動するかはまだ分かっていない。
2011年のユーロ圏債務危機に際し、イタリア国債のスプレッドは500bp余りまで跳ね上がった。新型コロナのパンデミックが起きた2020年にも300bpを超えた。
JPモルガンのブラッドショー氏は、イタリア国債が落ち着いている現在の状況について「欧州全般にとって非常に良い兆候だ。銀行のストレスは通常、ソブリンのストレスに波及するからだ」と述べた。
イタリアの公的債務の対国内総生産(GDP)比率は昨年、高インフレに助けられて約145%と、2020年の155%から縮小した。パンデミック前は134%前後だった。
DWSの金利・債券責任者、オリバー・アイヒマン氏は「政治サイドからのノイズがなく、現状ではイタリア独自の懸念要因が存在しない」と述べ、債務の持続可能性も現時点では「大きな問題になっていない」と語った。
また復興基金190億ユーロの支払いが懸かっているため、メローニ政権がEUとの交渉でリスクを冒す公算は小さいと投資家はみている。
(Yoruk Bahceli記者)
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