●各国の金融政策を注視
2023年は主要国の中央銀行が舵取りを修正する可能性が高い。インフレ抑制を目指した金融引き締めが続いており、利上げの一時停止を明言する中銀はまだないが、一部の国でインフレ高進が一巡していることや景気が悪化する傾向にあることからすると、その時期は迫っているのではないか。豪中銀(RBA)は昨年最後の会合で利上げサイクルの一時停止を検討したことを明らかにしている。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げをいったん打ち止めとするなら、ドル建てで取引されるコモディティの見通しが変わりそうだ。
ドル相場に最も左右されるのはドルの代替資産とされる金相場である。フェドウォッチが示しているように、FRBが3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを停止するならば、ドルの上げ一服感が強まる可能性が高い。ドルインデックスは昨年9月で上昇が一巡しており、タカ派的な米金融政策が修正されるなら、他国の金融政策次第でもあるが、ドル安が鮮明となるのではないか。
ユーロ圏のインフレ率は依然として高水準で推移している一方、エネルギー価格の低下もあって米国の物価上昇率は鈍化しつつあり、米利上げ停止期待が高まっている。今年初めに米国の利上げ停止が視野に入るようならば、リセッション懸念は和らぐだろう。
ただ、インフレ率が十分に減速するまで、企業や家計は高水準の金利負担に耐えなければならず、主要国の利上げ停止によって景気後退が回避できるとは思えない。また、米利上げ停止によりドル安に振れる可能性がある一方で、長くて深いリセッションが訪れリスク回避のドル買い需要が高まるならば、金価格の上値圧迫要因になりそうだ。
●中国の経済活動正常化が与える影響は
インフレ率が順調に鈍化せず、高止まりするリスクがあることが今年の景気見通しを不透明にしている。アジアの一部の地域を除いて世界はコロナを過去のものとし、経済活動は正常化しているものの、主要国の超過死亡率が何故か上昇している。これは人手不足を長期化させ、インフレ圧力がすっきりと後退しない可能性がある。コロナ後は超過死亡率が上昇しているだけでなく、身体的な障がいから働くことが困難となる人々も増加しており、インフレ圧力の低下を妨げる要因となるだろう。
米国における16歳以上の障がい者数は9月に3322万3000人まで増加し、統計開始以来の最高水準を更新した。米国の全人口の約10%が障がい者であり、さらに増加する傾向にあることには素直に驚く。この傾向は英国でも報告されており、おそらく一部の国だけの現象ではない。コロナ後の世界で人々に何が起こっているのか。日本でも例年以上に多くの方々が亡くなっている。東日本大震災並みとなっている超過死亡が発生する理由が判明することを願う。
世界がカタール・ワールドカップを満喫した一方、中国は撤回が進みつつあるゼロコロナ政策の後始末に追われている。長期化したゼロコロナ政策に対する反感の高まりから、中国政府は感染対策を一気に緩和したものの、体調不良の人々が増加した。世界で最も厳格な感染対策を実行したはずの中国が最後までもがいているが、他の国々が示すように経済再始動のカギは感染による免疫の獲得である。
生ワクチンが行き渡るなら2023年の中国は回復の1年となるだろう。中国のゼロコロナ政策という壮大な実験によって、ロックダウンや行動制限といった感染対策に終わりがなく、マスク着用による感染抑制効果に再現性がないことが示されたことは、将来の糧となりそうだ。カオナシ同士のコミュニケーションは不十分であるほか、他者をバイキン扱いする思考は病的で歪んでおり、社会経済を蝕んでいる。
経済的にも心理的にも中国が正常化するならば、コモディティ需要が上向き、調整局面にある原油や非鉄相場を押し上げるだろう。金融引き締めによって主要国の景気が悪化しても、中国経済が復旧するなら世界全体としてある程度は相殺されることから、高水準の政策金利に怯え過ぎる弊害もありそうだ。ただ、中国経済の再開はインフレ圧力を高める。景気か物価か、金融政策か、何を軸として2023年を見通すのが最善なのか、不透明だ。
●値動きの大小は驚きの大小、視野の外に意識を向ける
金融市場を眺める際に重要なのは、いずれのテーマが最も利益を生み、実現性があるか見定めることである。より多くの利益が得られるかどうかは潜在的な値動きの大きさ次第である。値動きの大小は驚きの大小であり、昨年で言えばロシアのウクライナ侵攻はサプライズだった。
近年ではコロナのパンデミックも世界を揺るがしたが、上述したような物価や金融政策の見通しはごくありふれており、率直に言ってサプライズとは無縁である。ウクライナ情勢に次の動きはあるのか、あるいは今年も何かかが起こるのか。視野の外に意識を向けておくべきだ。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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