本連載では、マーケター向け学習事業のグロースX(東京・渋谷)が開発するアプリに盛り込んでいる人気クイズなどを軸に、今日から役立つ知識を伝えていく。今回のテーマは、「ブランド」だ。なかなか一言では言い表せない概念だが、マーケティングの重要な要素として、切っても切れない関係にある。ロングセラーブランドの立て直しを題材にしたクイズを皮切りに、ブランドの定義やブランディングが必要な状況について、グロース X 戦略アドバイザーでブランドコンサルティング専門会社インサイトフォース(東京・渋谷)代表取締役の山口義宏が解説する。
あなたは食品メーカーに勤めるブランドマネジャーだ。ロングセラーブランドである主力菓子の売り上げがここ数年、低下傾向にあるため、上司であるCMO(最高マーケティング責任者)から売り上げの立て直しを指示された。事前の調査の結果、既存商品への不満が要因ではなさそうだ。最初に取り組むべき施策として正しいのはどれか。
(1)デザイン会社に発注し、ロゴ・パッケージを見直す
(2)高級路線のラインアップを新たに投入する
(3)新しいフレーバーを投入する
(4)宣伝を従来のマス広告からデジタル広告に切り替える
いかがだろうか。正解は「(3)新しいフレーバーを投入する」となる。その理由を解説していこう。
食品・飲料系のロングセラーブランドの売り上げが低下傾向にある場合、挙げられる要因として多いのは「喫食習慣の自然消滅」だ。既存顧客が特に味に大きな不満や自覚的なきっかけがないまま食べる習慣を失い、購入頻度が下がって売り上げの減少につながっていることが多い。
喫食習慣を復活させるには、当たり前のようだが「店頭の棚に置かれ、手に取りやすい環境」と「もう一度手に取るきっかけ」をつくることだ。食品や飲料の定番品は、どうしても時間とともに飽きられる宿命にある。ロングセラー商品ほど、消費者にとって味としては好みの範囲であるものの、喫食機会が減り離脱したままの顧客が市場に大きなボリュームで存在することが多い。その過去に離脱したままの「休眠顧客層」に、再び商品を手に取ってもらい、喫食する習慣を取り戻すことが売り上げ回復の鍵になる。
その観点で、設問の4つの選択肢を見てみよう。まず、最初に取り組むべき策として「(1)デザイン会社に発注し、ロゴ・パッケージを見直す」は考えにくい。定番品の売り上げ低下において、ロゴやパッケージのデザインが主な要因となっているケースは非常に少ない。さらにデザインのリニューアルに失敗すると、売り上げが一層下がることすらあるので、慎重に判断すべきだ。
「(2)高級路線のラインアップを新たに投入する」については、誤りとは言い切れないが、そもそもこの商品を支持していた顧客に高級路線が望まれているのかどうかを、調査などで確かめてから着手すべきだろう。違和感の妙で話題化する場合もあるが、多くのブランドは高級化を望まれていない。
最後に「(4)宣伝を従来のマス広告からデジタル広告に切り替える」は、有効な場合もある。デジタルメディアへの接触に偏った人からすると、Web上で商品やブランドを目にする機会が増えると、ブランド想起率は向上する。ただ、商品に飽きがきている場合、商品自体を何も変えずに再び購入が起こることはあまり期待できない。正解とした「(3)新しいフレーバーを投入する」と組み合わせて実施することで有効になることが多い。
では、なぜ新しいフレーバーの投入が妥当なのだろうか。新フレーバーの商品は、再びそのブランドを手に取るきっかけになる可能性が他の選択肢よりも相対的に高いからだ。また、小売り流通のバイヤーへのアピールにもなりやすく配架(棚取り)の増加が期待できる。棚に置かれ、店頭での露出が増えれば目にする人の割合も増える。また、新フレーバーの商品の話題をSNSなどでうまく広げられればブランド想起率が高まり、店頭での指名買いや購入意欲を促すことにもつなげやすい。
その際に念頭に置くべきなのは新フレーバーの購入と喫食を機に、休眠顧客に定番商品の喫食習慣を取り戻してもらうことだ。新フレーバーはあくまでも「喫食習慣を復活してもらうためのきっかけ」であり、野放図に味のラインアップを増やし続けることや、新商品投入サイクルが短くなるのは収益面での弊害が大きい。あくまでも定番品は維持したうえで、新フレーバーを一定のサイクルで期間限定で投入し、既存顧客の再購入と新規顧客の獲得の両軸を狙うことが、定番品の売り上げの回復や持続的な成長の鍵になる。定番品こそ太く長く育てることが大切なのだ。
その観点からすると、新フレーバーを投入せずに、休眠顧客が定番商品を再び手に取ってもらうことができる施策があるならば、それが理想だ。ただし、難易度は非常に高い。
1つ注意すべきは、マス向け商材においては、新商品の味をマイナーな食材にすると成果が出ずに空振りが増えるということだ。マーケターは感度の高さゆえに新しいはやりの食材に目が向きがちだが、多くの人が味を想起できる食材でないと、SNSなどで話題にはなっても、売り上げ増や休眠顧客の掘り起こしといった目的は果たせないことが多い。
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