日本の未来を考える
インフレの動きが世界的に広がっている。特に顕著なのは米国だ。当初、物価上昇は一時的とみて静観していたFRB(連邦準備制度理事会)も、ここに来てインフレ対応で金融引き締めの姿勢を強めており、これが市場金利の上昇の流れを作り、世界的な株価の大幅下落を招いている。
日本では消費者物価はそれほど上昇していないが、企業の原材料費を反映する企業物価指数は昨年、前年比4・8%の上昇だ。1981年以来40年ぶりの上昇率の高さである。原材料費の高騰が続けば、いずれ消費者物価も上昇していくだろう。特に、年金やこれまでの蓄えで生活をする高齢者は、物価上昇によって受ける被害は大きい。
どこの国でも高いインフレ率を容認することは政治的に難しい。FRBが積極的に動くのは、早い段階からインフレの芽を摘んでおきたいからだろう。
それにしても、米国の金融引き締めに対する株価下落の動きは激しかった。それだけ金利に株価が大きく反応する状況であるということだ。株価ほどすぐに動きがあるわけではないが、不動産価格も金利の動向によって大きく動く可能性はある。
そもそも問題なのは、コロナ禍の中、多くの国でかつてない規模の金融緩和が続けられ、株や不動産などの資産価格が引き上げられていたことだ。実体経済は低調なのに資産価格だけが上がり続けた結果、両者の極端な乖離(かいり)が起きていたのだ。日本の株価の動きで見ると、コロナ危機が広がった初期には1万6000円台まで下がっていた株価(日経平均)が、その後の大胆な金融緩和の中で3万円台にまで上昇を続けた。この間、実体経済はコロナ禍の影響で全く振るわなかったのに、株価だけが糸の切れた凧(たこ)のように上昇を続けた。
さて、日本でも足元で広がり始めたインフレの動きは、こうした資産価格と実体経済の乖離にどのような影響を及ぼすだろうか。当面、中央銀行の動きが鍵を握っている。今のところ、日本銀行は大胆な金融緩和を修正する動きを見せていない。日本の1%を切るインフレ率ではそれも当然だろう。急速に金融引き締め方向に舵(かじ)を切ったFRBに対しては、市場関係者の中から批判の声も出ている。あまりに急激なインフレ退治は株価暴落・景気後退を招くというのだ。ただ、中央銀行は、インフレの動きを軽視することもできない。今後、金融政策がインフレ退治の色彩を強めるかどうかは、実際のインフレの動きいかんによるだろう。これは米国も日本も同じだ。
もっとも、金融政策によって資産価格が下がることは一概に悪いことではない。そもそも実体経済からかけ離れた高水準の資産価格が問題であったのだ。株価や不動産価格の暴落によって経済に混乱が起きることは絶対に避けなくてはいけないが、穏やかなインフレで景気や賃金が上昇する一方で、資産価格が実体経済を反映したような水準に戻っていくことはむしろ好ましいことである。(いとう もとしげ)
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