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Wednesday, December 30, 2020

細野晴臣と映画音楽(前編) | 細野ゼミ 3コマ目 - ナタリー

活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている細野晴臣。音楽ナタリーでは、彼が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する連載企画「細野ゼミ」を展開中だ。ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という同世代アーティスト2人。

第3回は映画音楽をピックアップし、前編では細野が衝撃を受けたという劇伴作品、安部とハマにとっての映画音楽のあり方について語ってもらった。

取材 / 加藤一陽 / 望月哲 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

映画音楽で全部違う曲はあり得ない

──最初に素朴な疑問なんですけれども、細野さんのもとにはどんなふうに映画音楽のオファーが来るんですか?

細野晴臣 以前は1本丸々だったんですけど、だいたいは断るんです。荷が重くて(笑)。1本丸々音楽を付ける気力がないんですよね。最近はエンディング曲だけをオファーされることが3本続いていて。それだとやりやすいなって。

──1本丸ごとだと取り組み方も違ってきますか?

細野 一昨年くらいに「万引き家族」を丸々1本やって、それ以前もずっと丸ごとやってたんですけど、自分にできることってそんなに多くないから、監督が指名してくれればできるかなっていう。つまり僕は映画音楽の作曲家じゃないから、劇伴は作れない。

──とはいえ、かなりの数の映画音楽を制作していますよね?

細野 そんなにやってないでしょう。

──「銀河鉄道の夜」を皮切りに、「パラダイス・ビュー」「紫式部 源氏物語」「メゾン・ド・ヒミコ」「グーグーだって猫である」「万引き家族」「Malu 夢路」といった7本の映画で音楽を担当されています。最初に手がけた「銀河鉄道の夜」は、どんな感じで制作を進めていったんですか?

細野 「銀河鉄道の夜」は映画というよりもアニメーションだしね。まず依頼された曲のリストが届いたら、30数曲もある(笑)。もう、げんなりしちゃって(笑)。

ハマ・オカモト ははは(笑)。アルバム3枚分とかですもんね。

細野 映画音楽で全部違う曲って、あり得ないんだよね。だいたい使い回していくじゃない?

ハマ そうですよね。メインになるテーマ曲があって、曲ごとにアレンジをちょっとずつ変えたり。

細野 ところが全部違う曲にしてほしいということだったんで、30何曲も全部違ったらトゥーマッチだなと。しかも映像を観ないで作らないといけなかったから。

安部勇磨 えっ? 映像を観ないで作ったんですか?

細野 アニメってそういうものなんだよね。

安部 じゃあ、あの世界観はなんとなく資料とかを読んでイメージしたんですか?

細野 もう自分勝手に。もちろん原画があるし、絵コンテもあるけどね。

安部 「銀河鉄道の夜」って民族楽器っぽい音が入ってるじゃないですか? 「ぶー」って笛みたいな不思議な音とか。あれはどういう楽器を使ってるんですか?

細野 基本的にシンセ。あとは当時出たばかりのサンプラーも使ってるけど。

安部 ちなみにどういうシンセを使ってたんですか?

細野 Prophet-5が多かったかな。

安部 Prophetだったんですね! 僕ずっと気になってて。昨日、青葉市子さんと話したときも、「銀河鉄道の夜」の「ぶー」って音の話題になって、市子さんから「ぜひ聞いてきてほしい」って宿題を渡されてきたんですよ(笑)。

細野 そうだったんだ(笑)。

音楽的に一番びっくりした「用心棒」

ハマ 細野さんはご自身で映画音楽を手がける以前から、劇伴も好きで聴かれてたんですか?

細野 そうだね。もともと映画が好きだから。

ハマ だとしたら先ほどおっしゃっていたように、劇伴が30何曲全部違うというのは余計トゥーマッチに感じられたのかもしれませんね。映画好きとしては。

細野 そうだね。どちらかと言うと観る側の意識のほうが強かったかな。昔と今とでは音楽の使い方が全然違うから。昔の映画には、そんなにいっぱい音楽が入ってない。下手するとほとんど音楽が入ってないし。あるいは全然印象が残らないとか。そういう映画でも、いい作品が多かった。

──昔は映画音楽を作る専門の人たちがいたんですよね。

細野 そう。マエストロ級の教育を受けた人たちがオーケストラで制作していて。黒澤明とか、いい映画を作る監督は音楽にすごくこだわるから。で、黒澤明はすごくトラブルが多いんだよね(笑)。「乱」という映画を撮ったときは、音楽担当の武満徹と喧嘩しちゃったらしい。

ハマ安部 へえ!

細野 音楽が好きなあまりね。黒澤監督が「ここにこういう音楽を付けてくれ」って、マーラーの曲とかを仮で映像に当ててくるんだって。それで武満さんが怒っちゃった。

ハマ お互いに譲れず。

細野 喧嘩ばかりだったみたい。気持ちはわかるけどね。武満さんも映画音楽をいっぱい作ってるし、素晴らしい作品がいっぱいある。中学のときに観た時代劇とかすごかったね。小林正樹監督の「切腹」っていう映画だ。琵琶を使ってね。

ハマ 和楽器が鳴っている感じの。

細野 でも純邦楽じゃないんだよ。現代音楽みたいな。中学のときに観て「すごい!」と思った。音楽的に一番びっくりしたのは黒澤の「用心棒」。音楽を聴きたくて6回観に行ったんだよ。

ハマ マジですか(笑)。

細野 当時はサントラが出てなかったから。日本の映画はね。

──そもそもサントラ盤というものが出てなかったんですね。

細野 でもしばらくしたら「映画を聴きましょう」っていうサントラが出たよ。25cmの。

ハマ それはレコードで?

細野 そう。ジャケットが「用心棒」の写真で興奮したね。「映画を聴きましょう」というタイトルは僕の本(2017年刊行の著書「映画を聴きましょう」)で使わせてもらった。

ハマ 当時の細野さんは映画館に殺陣を観に行ったんじゃなくて、音を聴きに行ってたんですね(笑)。

細野 いまだに「用心棒」の音楽が好きだね。あれは真似ができない。

ハマ 「用心棒」は観たことありますけど、今度は音楽に注目して観てみよう。

細野 すごいよ。マンボとかボレロとか。芸者たちが和楽器でマンボを演奏するシーンがすごく面白い。「用心棒」の劇伴を担当したのは佐藤勝さんなんだけど、その前までは早坂文雄さんという人が黒澤映画の音楽を作っていて、(フェデリコ・)フェリーニとニーノ・ロータみたいに、ものすごくいいコンビネーションだったんです。ずっとコンビを組んでたんだけど、早坂さんが病気で亡くなっちゃった。で、その弟子だった佐藤さんが引き継いで、そのあといい作品にいっぱい携わって。ちなみに、久石譲さんは佐藤さんのお弟子さんらしい。

安部ハマ へえ!

細野 だから日本にも映画音楽の系譜があるんだね。

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