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Monday, April 6, 2020

脱出するため施設に戻ったサブロウ。職員ロボたちを次々と倒してゆくが……。 小林泰三「未来からの脱出」#6-4 | 小林泰三「未来からの脱出」 | 「連載(本・小説)」 - カドブン

小林泰三「未来からの脱出」

※この記事は、期間限定公開です。

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 彼は変異人類の世界から超小型の電磁波爆弾を持ち込んだのだ。本当はサンクチュアリ全体をカバーする程の威力を持った爆弾にしたかったのだが、そんな爆弾を爆発させると、ペースメーカーなど居住者の体内に埋め込まれた人工臓器にも影響が出ることを考えて、効果が出る範囲は十メートル程度に抑えてある。だから、できるだけ多くのロボットを近くに集める必要があったのだ。
 警報などはならなかった。当然だ。わざわざ人間にわかるように警報を出す意味はない。電波か赤外線か、何かそのような人間にはわからない方法で、警報が出ているはずだ。ここにいるロボットは十体、おそらくこの施設には、あと十体程のロボットがいて、その全員に警報が届いているはずだ。
 サブロウは廊下を走った。走るのは何年ぶりなのかわからなかったが、特に支障はないようだった。
 すると、前方から何体かのロボットが走ってきた。
 サブロウが立ち止まると、今度は背後からも走る音が近付いてくる。
 サブロウは前後の敵の位置と速度を確認し、両者がちょうど同じタイミングで、彼を捕獲できるような位置に移動した。
 観念したように手を挙げる。
 ロボットはサブロウの手を摑んだ。
 その瞬間、二発目の電磁波爆弾が起動した。
 ロボットたちはがしゃりと崩れ落ちる。サブロウは自分の部屋に向かった。そして、ドアの前で三発目の電磁波爆弾を起動した。
 できれば、無駄に消費したくはなかったが、部屋の中でロボットに待ち伏せされていたら、困ったことになる。
 部屋の中から物音がした。
 ドアを開けると、二体のロボットが倒れていた。もし、隠しカメラや盗聴器が仕掛けられていたとしても、使い物にならなくなっているはずだ。
 サブロウは手早く、机の引き出しから日記帳を取り出し、すり替えた。古い日記帳は持ってきたケースに入れる。このケースに入れることで煙も出さずに燃焼して灰となるのだ。そして、壁紙の裏に紙を忍ばせた。
 さて、あとどのぐらい時間が残っているか。
 サブロウは中庭や大広間でハンドレッズのメンバーを探したが、なかなか見付からなかった。
 まさか、俺が戻ってくることを警戒して、に移したのか? それとも、まさか口封じをされたのか?
 恐ろしい考えが浮かんでくるのをサブロウはかぶりを振って否定した。
 そんなことは絶対に起こらない。ロボット工学三原則が彼らを守ってくれているはずだ。
「極めて興味深い」
 声に気付いて、振り向くと、そこにはドックがいた。
「ドック!」
「ふむ。君はここの居住者にしては若い。そして、服装からして、ここの職員ではない。そして、とても焦って何かを探しているように見える。そして、先程までここにいた職員たちが飛び出したまま戻ってこない」ドックは顎に手を触れた。「君は侵入者だ。それなのに、わたしのニックネームを知っている。そこから、導かれる答えは極めて特異な結論だ」
「ドック、聞いてくれ。ここがただの高齢者施設でないことの証拠を持ってきたんだ」
「そうだろうね」ドックは冷静に答えた。
「知ってたのか? 今回は記憶を消されなかったとか?」
「いや。今、君の発言から推理したんだ。なるほど。わたしは記憶を消されたことがあるのか?」
「厳密に言うなら、記憶の封印だけどね」
「職員たちはどうした?」
「何人かは俺が倒した。残りの連中は俺を探しているんだと思う」
「物音はしなかったようだ。君は何かの武術の達人なのか?」
「いいや」
「サイレンサー付きの銃器を使ったのか?」
「そんなものは持ってない」
「爆弾なら大きな音がするはずだ。だとしたら、ガスか? だが、君はガスマスクを着けてないようだ。となると……電磁パルス」
「ご名答」
「さっき、一瞬、テレビや照明が揺らいだからね。同時に職員たちの正体も判明する。電磁パルスで倒せるということは、体内に装置や金属を入れた人間か、ロボットだ。サイボーグである可能性も完全には否定できないが、彼らの効率的な動きを見るに、おそらくロボットだろう。ロボットなら、ロボット三原則に従うはずだ。それなのに、君を追っているということは、第〇条に抵触するような事態が進行しているということになる」
「あんたには証拠を見せる必要はなさそうだね」
「爆弾はあと幾つだ?」
「残り一つだ」
「見てもいいか?」
 サブロウはドックに電磁波爆弾を手渡した。
「小さいな。わたしの知っている技術よりはるかに進んでいる。ということは、つまり今は二十一世紀半ばではないようだ」
「歴史の説明も不要だな」
「それで、仲間はわたし以外にもいるのか?」
「ああ。ミッチもそうだ」
 ドックは片眉を上げた。「彼女はわたしの友人だ」
「今はただの友人なのか?」サブロウは面白そうに言った。
「それはつまり……」ドックは一瞬だけ動揺の表情を見せたが、すぐに消えせた。「以前はより親密だったということなのか?」
「それは俺の口からは言えないな」
「以前の記憶があるのは君だけだろう」
「ある種の感情は封印されないようだ。あんた自身の口からミッチに言うこったな」
 ドックは無表情なままだった。「仲間はそれだけか?」
「……ああ。いることはいるが、今は無理に仲間を増やすべきではないかもしれない」
「ミッチについては、すぐに言ったのに、その相手のことを言うのにはちゆうちよするのか。なるほど。君にもある種の特別な感情を持った相手がいるということだな」
「仕返しかよ!」
 ドックは窓から中庭を眺めた。「今、ちょうどミッチが中庭にいる」
 サブロウはエリザの姿を探したが、中庭にはいないようだった。
「早速、作戦会議を始めよう」ドックは電動車椅子を動かして、中庭へと向かった。
 サブロウは慌てて後を追う。
 こんな開けた場所で会議だって? ついに、ドックも焼きが回ったのか?
「ミッチ、ちょっと来てくれ。紹介したい人がいる」ドックは呼び掛けた。
「何?」ミッチが二人に近付いてくる。
 三人に気付いた職員たちが近寄ってきた。
「まずい。三人とも捕まってしまう」サブロウが焦って言った。
「そんなことより、電動車椅子は電源を落としておけば大丈夫だろうか? まあ、壊れたとしてもたいしたことじゃないが」
「こんなときにいったい何の話を……」サブロウはドックの手に握られているものに気付いた。
 そう言えば、まだドックから電磁波爆弾を返して貰ってなかったんだ。
 職員たちが三人を取り囲んだ。
「どうしても確認しておかなくてはならないことがあってね。自分自身も含めて」
 ドックはスイッチを押した。

▶#7-1へつづく
◎第 6 回全文は「カドブンノベル」2020年4月号でお楽しみいただけます!



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