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Wednesday, April 1, 2020

挑戦的研究「ムーンショット」がロボット・AI技術融合で追求する究極の形|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 - ニュースイッチ Newswitch

ヒト型ロボットアバターの操作例、機体は東京ロボティクス製

政府のムーンショット型研究開発制度では、ロボットと人工知能(AI)技術を融合させた究極の形を二つ追究する。一つは遠隔操作型だ。アバター(ロボットやCGの分身)を同時に10体操作する技術を2030年までに開発する。2泊3日の小旅行がアバターを介して10体20泊30日の長旅になるかもしれない。もう一つは完全自律型だ。自動で科学の原理や解法を発見するAIロボを開発する。研究開発の競争力のあり方が問われる。どちらも産業を大きく変える可能性を秘めている。(取材・小寺貴之) ムーンショットでは2050年までに人が身体や脳、空間、時間の制約から解放された社会の実現を目標に掲げた。そのために30年までに、一つのタスクに対して1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度や精度で操作できる技術を開発する。アバターを操作できるだけでは役に立たず、働かせなければ開発投資を回収できない。 産業技術総合研究所人間拡張研究センターの持丸正明研究センター長は「システム側は自動化やAI化、人間側は脳の適応や定着を促す技術が必要になる」と指摘する。その上で人とシステムをつなぐインターフェースには、「システム側で完結できない部分の把握と、人の注意や身体能力が、どの程度余裕があるか管理し、人に伝える技術が必要になる」と説明する。 これまでも情報技術やロボット技術は人間の生産性を10倍以上に高めてきた。例えば簡単なグラフィックデザインはAI技術で自動生成できるようになってきた。デザイナーはAIが制作したデザインを参考に、自分なりのデザインを仕上げる。これは画像検索で類似デザインを探す行為と似ている。翻訳も同様だ。人間が日本語を英語に直すよりも、自動翻訳に生成させた翻訳文の不自然な部分を修正する。良い言い回しが思いつかない場合は翻訳例から選ぶ。 一人で複数人と対話するシステムの研究も進む。名古屋大学の石黒祥生特任准教授は「気づきや感性が求められる部分以外をコンピューターが行い、重要な対応を人が担うことでより丁寧な対応を多くの人に提供できる」と展望する。 人が考えたり、作ったりするプロセスを、候補の中から選ぶプロセスに置き換えると作業効率が向上する。ただこの多くは、頭脳に次々にタスクを任せ、順番に仕事を素早くこなす逐次処理だった。一時に考えるタスクは一つでよかった。 10体のアバターをフル活用するには並列処理が大切になる。例えば接客の仕事を半自動化して逐次処理で体のアバターを同時に操作することはできる。だが自動化割合の高い仕事は、担い手がその作業に創造性を感じにくく、すぐに飽きてしまう。表計算ソフトは自動集計AI、調理機能付きの電子レンジは調理ロボットと呼ばれず、単調な作業の道具になってしまった。 タスクを半自動化して大量にこなせるようになると、時間が経つにつれその仕事の創造性が色あせていく。ムーンショット目標の制約からの解放を実感するには、いくつも並列処理できる自由さと、タスクの創造性を維持する必要がある。プログラムディレクターを務める国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の萩田紀博招聘研究員は「当然、運用面も考える必要がある」と説明する。 解決策はいくつかある。一つは感覚器を代えることだ。例えば10人の音声を同時に聞き分けることは難しい。音声認識でテキストに直して文章を要約できれば10人分の会話を一覧できる。聴覚の情報を、より処理能力の高い視覚情報に変えて技術で支援すると、タスクの陳腐化を防いで処理能力を上げられる。またゲーミフィケーションで個タスクを一つのストーリーにまとめると、タスクの簡略化や切り替えを意識しないで済む。 それでも観光や会話のような自由度の高い行為は並列化が難しい。アバター10体を同時に操作する通信インフラや制御技術を堅実に開発しても、それを使いこなす頭脳は、幼少期から使い慣らして脳を適応させる必要があるかもしれない。 完全自律型のプロジェクトでは50年までに自ら学習し、行動して人と共生するロボットの実現を目指す。そのために30年までに9割以上の人が違和感を持たないAIロボや、自動的に科学の原理や解法の発見するAIロボなどを開発する。 特に科学するAIロボは日本の産業界に与える影響が大きい。研究開発のボトルネックが変わる可能性がある。この先端を走るのは材料研究をAI技術などで高度化する「マテリアルズ・インフォマティクス」だ。 材料科学を単純化すると、理論系の研究者が物理現象のメカニズムから理論式をつくる。計算科学の研究者がコンピューターでシミュレーションし、材料の性能を予測する。実験系の研究者が実際に材料を合成し性質の計測する。そしてデータ科学の研究者がデータから有望領域を絞り込み、次の実験やシミュレーションのあたりを付ける。これを繰り返すと高性能材料が見つかり、そのメカニズムが解き明かされる。 この一連の流れの自動化が目標だ。すでに先行例がある。東京工業大学の一杉太郎教授は無機薄膜材料研究のロボット化を進めている。一杉教授は「全自動の合成・探索に向け、世界中で研究が活発化している。だが確立したとはまだえない」と説明する。 薄膜材料の最適合成条件を決定するための繰り返し作業は自動化できる。ただ実用に耐える物質を見つけるのは容易ではない。見つかったとしても別の物質と組み合わせると劣化したり、製造が難しかったりする。実用材料は複数の条件を同時に満たしつつ、コスト競争力も求められる。自動合成と自動計測で集まるデータだけでは性能評価が完結しない場合が多かった。 さらに「自動的に科学原理や解法を発見することは極めて難しい」と評価する。言い換えると実現したときのインパクトは計り知れない。材料科学に留まらず、幅広い自然科学を変革しうる。

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