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Tuesday, August 1, 2023

賃金・ローン金利 私たちの暮らしにも直結~日銀が金融政策を一部 ... - nhk.or.jp

物価の高止まりが続く中で、注目を集める金融政策。日銀はきょう、長期金利をゼロ%程度に抑える政策をより柔軟に運用するよう修正をはかりました。私たちの生活にも影響を及ぼすことになる金融政策の修正の背景と今後の課題について考えていきます。

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解説のポイントは三つです。
1) 長期金利の抑制 柔軟に
2) なぜいま修正か
3) 緩和収束のタイミングは 
です。

1) 長期金利の抑制 柔軟に

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まず最新の政策決定の内容についてみてみます。
今回の会合で日銀は、短期金利をマイナス0.1%程度に、期間10年の長期金利を0パーセント程度に抑える大規模な金融緩和政策を継続することを決めました。そのうえで、これまで0.5%程度としてきた長期金利の変動幅の上限について、「0.5%程度をめどとし、より柔軟に運用する」ことを決めました。これにより、市場の動向に応じて上限の0.5%を超えることも容認されることになります。長期金利は、住宅ローンの固定金利の基準とされており、政策の修正はローン金利の上昇につながるおそれもあります。ただ日銀は、10年ものの国債金利について1%の利回りで金融調節を行うとしていて、事実上1%という上限を設ける形となります。

2)なぜいま修正か

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今回日銀が政策を修正した背景には、物価の動向の変化がありました。
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとした、エネルギーや穀物価格の上昇。1ドル140円台まで進んだ円安による輸入物価の値上がり。さらに、コロナ禍後の景気回復が加わり、前の年に比べた上昇率は今年1月には4.2%に。その後低下してはいるものの、6月も3.3%と高止まりしています。日銀が物価をこのレベルまで押し上げたいとしてきた2%という目標を大きく上回っています。となると市場では、日銀がやがて金融緩和を収束するのではないかという観測が強まって、金利が上昇する勢いが強くなります。そうなると、金利を厳格にコントロールすることがより難しくなるという指摘が出ていたのです。

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 もとより、長期金利を人工的に抑える政策をめぐっては、様々な問題点が指摘されていました。本来は市場が決める適正な金利の水準がわかりにくくなるなど、市場の機能がゆがめられる。その結果、国債を基準に金利を決めてきた社債が発行しにくくなるおそれがあるといった問題が指摘されていました。さらに欧米が政策金利を急速に引き上げる中で、日本だけが金利を低く抑えることで、外国為替市場では円を売ってより高い利回りが見込めるドルを買う動きが強まり、円安が進んで輸入品の価格が値上がりするといった問題もあります。景気を良くしようという緩和政策が逆に景気にマイナスの要因となるいわば副作用となっているのです。

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今回に決定について、植田総裁は今後想定より物価が大きく上昇し金利の急上昇を招く可能性を念頭に、「物価の上振れリスクが顕在化してから対応すると後手に回り、混乱したり、副作用が大きくなる」と述べ、そうならないように、予防的な措置をとった説明しました。背景には、去年12月、日銀が長期金利を抑え込む政策の修正をせまられた経緯があります。金利は返済までの期間が長い方がリスクが大きくなるため、返済期間が長くなるにつれてカーブを描いて上がっていくのが一般的です。ところが、当時金利全体が上昇する中で、日銀が10年ものの金利を人工的に抑えたことで、10年よりも短い金利の方が高くなるといういびつな状況が発生。市場機能が低下していると批判を浴びていました。植田総裁は、いま長期金利の抑制を柔軟化しなければ、近い将来、去年12月を上回る問題が起きる可能性もあるとして、それを未然に防ぐために今回の措置をとったというのです。

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ただ今回懸念されるのが市場とのコミュニケーションです。植田総裁は、記者会見で、事実上「1%を長期金利の上限とする」考えを示しましたが、市場では、金利が1%まで上昇することを認めたという観測が広がリ、長期金利は0.575%と9年ぶりの水準にまで上昇しました。また今回の措置が、金融緩和の収束に向けて地ならしをはかったという受け止めも広がっており、今後、市場が先走る形で金利が急上昇し、企業や個人がお金が借りにくくなるなど景気に悪影響を与える。そうなると、せっかくの賃金上昇の機運をしぼませてしまいかねません。日銀は今回の修正の狙いについてよりわかりやすく説明していくことが求められています。

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さらに、この時期に修正を踏み切った背景については、アメリカの金融政策と為替の動向がひとつ考えられます。アメリカの中央銀行に当たるFRBは、今週開かれた金融政策を決める会合で、政策金利を0.25%引き上げました。一方で、これまでの金融引き締め効果で物価の上昇率は大幅に低下しており、利上げが最終局面に近付いているという見方も出ています。今後アメリカの金利があがらず、日銀が金利が上昇する方向で政策を修正すれば、これまでとは逆にドルを売って円を買う動きが強まり急激な円高をもたらすおそれも考えられます。日銀としては、そうなる前のいわばフリーハンドをにぎった状況の中で、政策を修正したい思惑もあったものと見られます。

3)緩和収束のタイミングは
さて、日銀が長期金利を抑える政策の修正に踏み切ったことで、次の焦点は、日銀がいつ金融緩和の枠組み自体を転換し、正常化に向かうかに移っています。そのタイミングは早すぎても、遅すぎても様々な問題を招くことが考えられます。

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まず早すぎた場合。日銀は今回、物価上昇率の見通しについて今年度は、3か月前の1.8%から2.5%に上方修正する一方で来年度は1.9%に下方修正、再来年度は1.6%のままとしました。再来年度にかけて下がっていくのはエネルギーなどのコスト上昇分が価格に転嫁される動きが弱まると分析しているためです。日銀は賃金の上昇を伴う形で安定的に2%を超えていくことを目標としていますが、いまは「その実現を見通せる状況ではない」としています。こうした中で、金融緩和終了のタイミングが早すぎた場合には、景気を支える効果が薄れ、せっかく賃金があがりかけている動きに水をかけることになりかねません。

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その一方で、遅すぎた場合はどうなるでしょうか。専門家の間では、物価が日銀の想定している以上に上振れする可能性を指摘する声もあります。景気回復に伴ってサービス産業などでの人手不足から賃金が上昇し、物価を押しあげる強力な要因となるというのです。実際にそうなった例がアメリカでありました。FRBは、おととし、物価上昇をコロナ禍の供給不足がもたらした一時的な現象ととらえ、その後景気の回復による人手不足がまねいた賃金上昇の影響で激しいインフレに直面。急激な利上げという対応を迫られる形となりました。物価の上昇が続いて対応に追われるなど、かつての日本であれば考えられないことでしたが、いまは、賃金を上げなければ人が採用できず、企業も以前より抵抗感なくコストを価格に転嫁するようになるなど、賃金や価格の決め方に大きな変化がみられるようになりました。アメリカを他山の石として頭に入れておく必要もあるのではないでしょうか。

金融政策は、景気の行方、賃金の動向、ローン金利など私たちの生活に深くかかわってきます。日銀が副作用に対応しつつ、必要な緩和を継続し、適切な時期に政策の転換をはかることができるのか。引き続き注意深く見てゆく必要があります。


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