日銀は、植田和男総裁になって初の金融政策決定会合を開き、「異次元緩和」を含むこの四半世紀の金融政策を多角的にレビュー(検証)することを決めた。黒田東彦前総裁時の検証は大規模な金融緩和の効果を高く評価する一方で、副作用にはほとんど触れずじまいだった。植田日銀は政策の功罪を公平に評価し、行き過ぎた緩和策を修正する糸口とすべきだ。
この日の会合で維持を決めた大規模緩和は、デフレ脱却を掲げた黒田総裁就任後の2013年4月に開始。国債の大量購入などにより金利を低くすると同時に、上場株や不動産関連の投資信託を日銀が買うことで景気の押し上げを目指した。
当初は、2%の物価上昇目標を2年程度で達成するとしたが、実現できなかったことで、16年には短期金利にマイナス金利を導入。同じ年に、長期金利を0%程度に固定する「長短金利操作」へ移行し、現在に至る。
異例の金融緩和の長期化で深刻化したのが、その弊害である。超低金利による財政規律の緩みをはじめ、金融・株式市場のゆがみや機能低下、そして円安の進行などだ。これら負の作用が増大しても、なお大規模緩和を継続すべきだったのかどうか-。検証はその点を問わねばならない。
日銀は今回の検証について、デフレに陥った1990年代後半以降は「物価の安定」の実現が課題だったと指摘。その上で、この間の金融緩和策が「経済・物価・金融の幅広い分野と、相互に関連し、影響を及ぼしてきた」点に関し1年~1年半をかけ多角的に検証すると説明した。
黒田日銀の異次元緩和だけでなく、99年に打ち出したゼロ金利政策をはじめ、バブル崩壊以降の主な緩和策を評価する方針と言える。
デフレ克服への効果を分析・把握したい、経済学者としての植田総裁の意向を反映したのだろう。作業に時間をかけるのは、検証を大規模緩和の修正と切り離して位置づけるためとみられる。
だが、これで植田日銀最大の課題である「異次元緩和の後始末」に向き合っていると言えるだろうか。植田氏に期待されるのは学者出身らしい客観的で公平な分析と、それに基づき政策を合理的な修正へ導く姿勢だ。
日銀は黒田総裁時代の2016年と21年にも同様の政策検証を実施したが、いずれも大規模緩和の有効性を強調し、その継続を正当化するにとどまった。2%目標が実現できないのに「自画自賛」に終始し、副作用に取り合おうとしない姿勢が、金融市場や国民の日銀への信頼を損なったことを忘れてはならない。
この10年間、大規模緩和を続ける根拠となってきた2%目標を改めて俎上(そじょう)に載せるべきだろう。足元で3%を超えるインフレになりながら「賃上げを伴っていない」との理由で日銀は緩和を維持しており、それが円安や物価高に拍車をかけている。国民に理解しづらく、政策の硬直化を招いている2%目標の継続には異論が少なくない。
日銀は28日、最新の物価見通しを公表し、消費者物価上昇率(生鮮食品を除く、前年度比)が23年度は1.8%、24、25年度はそれぞれ2.0%、1.6%と見込んだ。目標にほぼ沿う物価動向を見込みながら、政策に変化が表れないのであれば植田日銀への期待は失望に変わるだろう。
Google News Showcaseからアクセスされた方へ会員情報変更のお願い
からの記事と詳細 ( 緩和修正の糸口とせよ/日銀が金融政策検証へ - 東奥日報 )
https://ift.tt/lROixhS
No comments:
Post a Comment