政府は二〇二一年に廃案となった入管難民法改正案を国会に再提出する。前回の提出時、名古屋出入国在留管理局施設でのスリランカ人女性死亡事件が批判を浴び、廃案に追い込まれた。
今回もほぼ同じ内容で、人権軽視の反省が生かされていない。改正案を撤回するか、国会で大幅修正することが必要だ。
改正案は、難民認定申請の回数を原則二回までに制限し、一時的に社会で生活できる「監理措置」を新設する。だが、監理措置を適用するか否かの判断は司法ではなく、入管当局に委ねられる。
そもそも改正の必要があるのだろうか。不法入国や不法残留で摘発される外国人は年間約一万七千人で、ほぼ全員が帰国している。入管が問題視するのは約三千人の送還を拒む人たちだが、その大半は日本で生まれ育ったり、祖国で迫害を受けかねない人たちだ。
送還拒否人数が膨らんだ最大の原因は日本の難民認定率の低さにある。欧米各国の数十%に比べ、日本は1%に満たない。独立した難民認定機関もない。まずはこの「鎖国」状態の解消が先決だ。
ところが、政府の姿勢は国外追放の強化に終始している。日本も加盟する難民条約は難民申請中の送還を禁じているが、政府は申請の繰り返しが長期収容の原因とみて、新法案に申請回数の制限を盛り込んだ。この制限は難民保護の国際規範に抵触する。
昨年夏、トルコ国籍クルド人として初めて難民認定された人はそれまでに二回、入管当局に申請を拒まれていた。入管の処分を取り消す札幌高裁の判決により難民認定されたが、法案成立後なら送還されていた可能性がある。
監理措置が新設されても、国連の作業部会などが国際人権規約違反と批判する無期限収容の仕組みは手つかずのまま。収容に司法審査を介在させるべきだとの野党の提案は一顧だにされていない。
名古屋入管での死亡事件後、当時の上川陽子法相は「収容施設として人を扱っているという意識がおろそかになっていた」と謝罪したが、改正案を見る限り、人権軽視の姿勢は変わらない。
好むと好まざるとにかかわらず、日本社会も外国人との共生を迫られている。国際的な人権水準の確立はその前提でもある。
政府には人権尊重を最優先した入管政策への転換を求めたい。
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