[東京 13日 ロイター] - 米国で発生した2つの銀行破綻は、米当局の緊急対応によって連鎖倒産という最悪の事態を回避している。ただ、米連邦準備理事会(FRB)は金融システム安定を優先させるため利上げを停止ないし減速させるのか、それともインフレ抑止を最優先に利上げを継続するかの難しい選択を突き付けられた。
米景気の雲行きが怪しくなる中で、植田和男次期総裁率いる日銀も難題に直面することになりそうだ。今後の米景気次第では日本経済も下押しリスクが増大し、金融政策の修正時期が後ずれする可能性が高まるだろう。
<米当局、素早く止血策実行>
米財務省とFRB、米連邦預金保険公社(FDIC)は12日、経営破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)の顧客が、13日から預金全額にアクセスが可能になると発表した。米ニューヨーク州金融サービス局が12日に閉鎖を命じたニューヨークを拠点とするシグネチャー・バンクの預金者にも全額保護が適用される。
さらに、FRBが預金取扱機関の保有する米国債などの資産を担保として、最長1年の資金を提供する「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」を導入することも打ち出した。
預金保険で保護される上限25万ドルを超える部分も保護するとしたことで、預金引き出しの波及や金融機関の連鎖倒産を防ぐ効果が期待できるほか、BTFPの実行によって金融の引き締まりを回避する狙いがある。
<FRBが直面するジレンマ>
ただ、今回の金融破綻の背景には、FRBによる急速な利上げの結果、米債券市場における幅広い金融商品に価格下落が発生し、有価証券を大量に保有してきた金融機関の財務体質を悪化させたという構造がある。その最も弱い部分から「出血した」というのが、2行の破綻と言える。
つまり預金の全額保護やBTFPの実行によって短期的な破綻連鎖は回避できても、経済全体や金融システムに溜まったストレスは解消されず、FRBが利上げを進めた場合、さらに大きな破綻が発生するリスクが高まるだろう。
一方、そのストレス拡大回避を最優先に利上げを停止ないし減速した場合は、足元で最優先課題とFRBが明言してきたインフレの解消が先送りされ、2%を超える物価上昇が長期化する可能性を高めることになる。
FRBは金融システム安定とインフレ抑制のどちらを最優先課題にするのか、という大変悩ましい選択に直面したと筆者は指摘したい。
もし、0.25%の利上げを継続しながら金融破綻の連鎖にも注意を払うという「折衷案」を採用した場合、両方とも目的を達することができず、金融破綻の発生とインフレ高進が同時進行するという最悪の展開もあり得る。
<日本経済、外需経由で下押し圧力>
いずれにしても米経済の「ノーランディング」は望むべくもなく、同国の景気は後退色を強める可能性が高まると予想する。筆者は3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利上げを決める可能性が高いと考えているが、金融システム不安を抱える中で銀行の貸し出し態度は厳しさを増し、そのルートからの引き締め効果も加わって、米経済は相対的に利上げに弱い分野から「不況色」を強めるとみている。
その結果、対米輸出比率が一定程度ある中国や欧州、そして日本の経済に減速感が加わる展開となるだろう。日本の輸出企業にとっては、米国と中国という2大輸出先がともに調整色を強める展開に直面する可能性がある。
<植田日銀、政策修正先送りも>
この波紋が、日本の金融政策の先行きに与える影響は決して小さくないと指摘したい。黒田東彦日銀総裁が10日の会見で強調したように、日銀は2%の物価目標を安定的に達成できる状況になっていないとの立場を維持している。
そこに外需がマイナスになるような展開が到来すれば、現行の超緩和策を修正する理由は存在しないとの結論が容易に導き出される。
実際、13日の円債市場では、10年最長期国債利回りが前営業日比0.075%低下して0.315%まで下がり、上限引き上げの圧力は大幅に低下している。市場関係者の一部には、4月ないし6月に上限引き上げがあるとの見方が浮上していたが、日銀には時間的な余裕が生じた格好だ。
また、実体経済に下押し圧力が生じかねないのであれば、マイナス金利解除の時期もかなり先送りされる可能性がある。総じてみると、日銀の政策修正を先送りさせる要因が急浮上してきたと言えるのではないか。
一方で、5月の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)後に衆院解散・総選挙のタイミングを探っているとみられる岸田文雄首相にとっては、やっかいな世界経済の情勢になってきた。景気後退の前兆が見えれば、補正予算の検討などを打ち出すこともありそうだ。
こうした展開が現実のものとなれば、この10年間に繰り返されてきた財政拡張・金融緩和維持という路線が、今回も踏襲されることになる。
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