[東京 7日 ロイター] - 日銀総裁候補の植田和男氏と副総裁候補の内田真一、氷見野良三両氏の人事案採決が近く衆参両院で行われる。同意後、岸田文雄内閣は3氏を正式に任命し、長引く金融緩和の副作用是正を探る構えだ。一方、アベノミクス脱却を印象付ける政策転換には自民党内の反発も予想され、マクロ経済政策の一翼を担う日銀トップの刷新が政権浮揚につながるかは見通せない状況だ。
<党重鎮自ら質問>
「所信聴取の意義をよく理解され、安全運転に終始した」。採決に先立つ2月24日と27日、28日の所信聴取について、政府関係者の1人はこう評価する。
事情に詳しい別の関係者によると、答弁内容は日銀が連日徹夜で準備したとされる。「(2月)10日に先行報道が出て以降、(日銀は)植田氏とコンタクトを取った。桁違いの質問を想定して回答を練った」とこの関係者は語る。
所信聴取を巡り、注目を集めたのが自民党安倍派の重鎮、世耕弘成参院幹事長が自らアベノミクスの是非をただした27日のやり取りだ。世耕氏が委員会の質問に立つのは2012年7月以来、10年7カ月ぶりだった。
「アベノミクスの一端に関わってきたものとしてどうしても確認しておきたいことがある」と切り出した世耕氏は「アベノミクスをどう評価されているのか」と迫り、植田候補は「デフレではない状態を作り出した。着実な経済の向上が得られた」と応じた。
もっともアベノミクスを継承するかとの質問には「持続的、安定的な(物価安定)2%目標を続けるという意味で踏襲する」との答弁にとどめ、物価目標を恒久的に維持すべきとの問いには「任期は5年。『恒久的な』というコミットは無理かと思う」と明言を避けた。
「いろんな考え方を散りばめながら言質をとらせず、新総裁にふさわしい政治的対応力も発揮した」と前出の政府関係者は言う。
<拙速な政策修正に風圧>
今回の日銀人事案について、専門家の間では「円安、物価高により、輸出企業はもうかっても給料の上がらなかったアベノミクスへの批判は党内でも高まっている。軌道修正を図ろうという意図がにじむ」(元自民党幹部職員で政治評論家の田村重信氏)との見方がある。
自民党内では、統一地方選や取りざたされる解散総選挙を前に円安・物価上昇が世論に与える悪影響が認識されており、ある派閥領袖は「アベノミクスは、いつまでも続けられるものではない」と明言する。
法政大学大学院の白鳥浩教授は「自民党最大派閥の安倍派は安倍晋三元首相のレガシーとしてアベノミクスの維持を非常に重視している」とする一方、「岸田首相は金融政策を正常化するため植田氏を総裁に起用する構えだ。今のところ植田氏は現行の金融緩和・低金利を維持すると言っているが、いずれかのタイミングで金融政策を修正するだろう」と語る。
ただ、拙速に政策修正に傾いた場合、政治の風圧をかわし切れるかは見通せない。ある安倍派の中堅議員は「手順を間違えれば米国のリセッションより先に、日本がリセッション入りしかねない」と警戒する。
採決に先立つ2月26日の自民党大会で、首相は「党員・党友、各級議員一丸となり、まなじりを決して、統一地方選挙を必ず勝ち抜こう」と呼び掛けた。
首相は、4月の統一地方選と、衆参5補欠選挙で勝利し、下げ止まり傾向にある政権支持率の浮揚に弾みをつけたい考えだが、政策修正のタイミングを見据えて「安倍派がアベノミクスからの脱却だと指摘し、政局になる可能性がある。閣内不一致なども増えそうだ」(前出の白鳥教授)との懸念もくすぶる。
別の安倍派議員は「植田新日銀の評価については、今後の動きを見てから判断したい」という。
政権浮揚のカギを握るマクロ政策運営では「安倍政権下で政治マターとなった金融政策を政治からいかに切り離していけるか」(別の政府関係者)という課題も突き付けられそうだ。
(竹本能文、山口貴也 編集:石田仁志)
からの記事と詳細 ( 焦点:政権浮揚となるか、日銀人事近く採決 脱アベノミクスに反発も - ロイター (Reuters Japan) )
https://ift.tt/YyHh0ms
No comments:
Post a Comment