日本電産の危機は不透明な構造改革費用だけではなく、主力の車載事業にも及んでいる。実際に、電気自動車(EV)向け駆動モーター「イーアクスル」の2023年3月期の販売台数の計画値を下方修正。強気の拡大路線から一転、収益重視で台数を減らす方針にかじを切った。だが実は、この経営判断こそ今後の車載ビジネスの成長を止めるものになってしまうかもしれない。特集『日本電産 永守帝国の自壊 LEVEL2』の#2では、車載事業にしのび寄る「二つの脅威」の正体に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二, 副編集長浅島亮子)
営業利益1000億円の下方修正よりも衝撃
「EVモーター下方修正」が示す暗転の予兆
「今回の決算の内容については、非常にびっくりされたと思う」
1月24日、日本電産が開催した決算説明会の終わりに、永守重信会長がおもむろに口を開いた。
日本電産は、2023年3月期の業績見通しを営業利益ベースで1000億円下方修正し、同第4四半期(1〜3月)は144億円の営業赤字に転落するという極めて厳しい決算を発表した。赤字に転落するのはほぼ10年ぶりのことだ。
飛ぶ鳥を落とす勢いで成長路線を歩んできた日本電産にとって、業績を大幅に下方修正することは“大きなつまずき”である。
永守氏はこう続けた。「創業から50年で溜まった垢をきれいに落として磨いて、(営業利益率)20%の利益構造、固定構造にしていく。成長を共にした高い収益が上がっていく経営をして参りますので、ご支援のほどお願い申し上げます」
株価を左右するアナリストが多数参加する説明会だったからだろう。説明会では終始、翌日以降の株価下落を何としても抑えたいという思いが感じられる発言が目立った。
確かに1000億円に上る下方修正は市場関係者にショックを与えるものだった。だからこそ、日本電産は23年3月期までに約600〜700億円の構造改革費用を準備し、緊急対策に打って出たとも言える(構造改革の中身については、本特集の『日本電産が1050億円下方修正を前経営陣の失態と説明、だが真の元凶は永守氏が買収した企業!?』参照)。
一方、自動車業界の関係者の間では、利益の下方修正ではなく「別の下方修正」の数字に衝撃が走っている。その数字とは、電気自動車(EV)向け駆動モーター「イーアクスル(EVモーター)」の23年3月期の販売台数計画のことだ。
23年3月期のEVモーターの販売台数の目標値を昨年10月時点の55万台から42万台へ13万台も下方修正したのだ。強気の拡大路線から一転、収益重視で台数を減らす方針にかじを切ったともいえる。
だが実は、この経営判断こそ今後の車載ビジネスの成長を止めるものになってしまうかもしれない。次ページでは、日本電産のEVモーター事業に迫る「二つの脅威」を解き明かすことで、永守氏が描く車載事業の危うさについて説明する。
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