奥州市長選が27日、告示される。懸案になっているのが、赤字を抱える市立病院・診療所の統廃合問題。市は原則、新病院を建設して機能を集約し、経営改善を図る改革プランを提示したが、市民の反対を受けて撤回。問題は宙に浮いたままだ。(小泉公平)
■5施設抱え赤字
奥州市は2006年2月の水沢、江刺の2市と前沢、胆沢の2町、衣川村の合併で誕生し、五つの病院・診療所を抱えた。市医療局によると、毎年約15億円を一般会計から投入しているが、20年度決算で累積赤字は計約27億9800万円に上る。
主な原因は医師不足による患者数の減少。17年度で計33人いた医師は退職が続き、現在21人に減り、診療体制も縮小した。
市は、水沢地区にある総合水沢病院を軸に、2025年度内の開業を目指して新病院を建設し、機能を集約して効率化を模索。計235床ある病床を新病院のみの124床に減らし、リハビリなどの回復期病床を中心として、感染症対策の病床にも活用するなど、特色ある病院を目指す改革プランを打ち出した。
新病院の事業費は約90億円を見込み、廃止する病院や診療所がある地区には、新病院までのバス交通網を整備するとして、昨年10~11月、市内5か所で市民説明会を開き、理解を求めた。
■改革案「反対」受け撤回
「身近に病院があることが大きな安心につながっている」――。説明会最終日の同11月2日に前沢地区で開かれた説明会。高齢の女性はこう訴え、改革プランに反対した。
3期目の小沢昌記市長(63)は同日、「効率化重視で進めることはできない。修正すべきところは修正する」とプランの撤回を表明。今後、病院・診療所を残した形の修正案を出す予定だが、経営改善の観点では、かなりの内容の後退が見込まれる。
ある市幹部は「若い世代の市民は改革プランに理解を示していたが、それ以上に高齢者から反対の声が多く、無視できなかったのだろう」と解説する。
■目指す将来像提示を
市長選に立候補を表明している元会社役員で新人の倉成淳氏(65)は、この問題について、「施設を存続させた上で、電子カルテの導入などでコスト削減を図り、住民ニーズに応じた医療体制を構築したい」という見解を述べるにとどまっている。
山形大学の村上正泰教授(医療政策)は、「少子高齢化や過疎化が進む中、医療機関が分散したままでは、医療の質の低下を招き、医師や看護師も集まらない。目指す医療の将来像を具体的に示し、市民の理解を得る必要がある」と指摘する。
市立病院・診療所の統廃合 奥州市立2病院・3診療所のうち、市の改革プランでは、総合水沢病院(水沢地区)、まごころ病院(胆沢地区)、前沢診療所(前沢地区)を廃止し、新設する病院に人や設備を集約。衣川歯科診療所(衣川地区)は存続させ、衣川診療所(同)は無床化して外来診療のみとする計画だった。
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