新型コロナワクチンの在庫が不足し、多くの自治体で、64歳以下の人たちに対するワクチン接種がペースダウンしています。そんな中、気になるのが、例年10月から、医療機関での接種が本格化するインフルエンザワクチンです。新型コロナワクチンの接種が遅れている影響で、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの接種時期が重なる人もいるかもしれません。また、来年受験を控える人の中には、受験前に両方のワクチンの接種を済ませたいと考える人も多いと思います。 両ワクチンを同時期に接種を受けても大丈夫なのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。
厚労省「2週間以上の間隔を」
Q.まず、医療機関が担当する新型コロナワクチンの接種業務について教えてください。 森さん「新型コロナワクチン接種の迅速化のため、自治体が用意する会場での『集団接種』に加え、医療機関(主に診療所)での『個別接種』が積極的に進められてきました。高齢者の優先接種開始以降、地域の診療所はワクチン接種における中心的な役割を担っています。一方、診療所にはもともと、『かかりつけ医』としての役割があり、そうした通常診療業務と、国や自治体主導で行うワクチン接種業務(個別接種会場としての業務と、集団接種会場へ出向いての業務)の両立が日々の業務量を大幅に増やしたり、経済的な負担を生じさせたりしていることは事実です」 Q.具体的には、どのような業務が負担となっているのでしょうか。 森さん「例えば、予約管理や当日キャンセルへの急な対応、問い合わせへの対応のほか、特に高齢者では『予診票』の記入漏れもあり、一つ一つ聞き取ってから修正するといった業務が発生しています。こうした事務関連の業務を通常診療の合間に行うため、『パートタイム職員の勤務シフトを増やして対応している』という診療所もあります。 『ワクチン供給量に合わせた予約管理に労力を奪われる』と言う医師もいます。7月に入り、自治体が予定していた量のワクチンを国が配布できない見通しとなり、各診療所への配布量も少なくなりました。『すでに予約していた人を新たな供給スケジュールに合わせて割り振りし直し、80人に変更後の予約日時の連絡票を速達郵便で送った』とその医師は話します。紙に書いて郵送するのは、接種する人の記憶違いによる当日キャンセルなどを防ぐためであり、これらの通信費は医療機関が負担しています。 さらに接種後の業務もあります。新型コロナワクチンの接種にあたり、国の『ワクチン接種記録システム』が導入されましたが、配布された機器の性能がよくなく、『入力業務に時間を取られる』という声が多く上がっています。新型コロナワクチンは接種後15分、あるいは30分程度、アナフィラキシー(緊急の治療が必要な急性のアレルギー反応)の有無を経過観察する必要があるため、診療所内で待機する必要があります。接種を終えた人への対応と同時に、待合室が『密』の状態にならないための配慮などもスタッフの業務となり、少人数体制の診療所では負担につながっているようです。 他にも、多くの自治体では、配送業者がワクチンを医療機関まで届けているようですが、ある自治体では『指定場所にワクチンを取りに行き、専用のバッグで診療所まで運んだ後、すぐに専用バッグを返却しに行かなければならない』という話も聞きました。自治体のルールや診療所の体制によって状況は異なりますが、通常診療業務では発生しない負荷がかかっているようです」 Q.政府は希望者に対する新型コロナワクチンの接種を10月から11月にかけて終えたいとしていますが、ワクチンの在庫不足により、11月に接種が終わらない可能性も考えられます。その場合、インフルエンザワクチンの接種も遅れる可能性があるのでしょうか。 森さん「新型コロナワクチンの接種会場となっている複数の診療所や病院に季節性インフルエンザワクチンの接種について尋ねたところ、『例年通り、10月開始で予定している』と回答がありました。季節性インフルエンザワクチンの接種率は通常、小児で50%から60%、65歳以上の高齢者で40%から70%で、今シーズンの接種が特に増えるとは考えられておらず、例年通りであれば、新型コロナワクチンの進み具合は影響しないといえそうです。その理由として、毎年のことなので接種される側も慣れていることや、接種後の待機時間がないことなど、業務負担が新型コロナワクチンより少ないことを挙げていました」 Q.インフルエンザワクチンの接種が例年通りということは、今冬、インフルエンザが例年以上に流行する可能性は低いのでしょうか。 森さん「季節性インフルエンザワクチンに期待される効果は、感染した場合の重症化を防ぐことです。厚生労働省健康局健康課予防接種室によると、『ワクチンの接種がインフルエンザの流行に影響するかどうかは明示できるものがない』とのことで、インフルエンザワクチンの接種が遅れる、遅れないにかかわらず、流行への影響は分かりません。 ちなみに、今シーズンのインフルエンザについては、新型コロナの流行に伴い、南半球での流行が2シーズンにわたって見られないことや、マスクや手洗いなどの感染対策の日常化によって『流行しないのではないか』という予測もあれば、昨シーズン、流行しなかったことから、罹患(りかん)による免疫を持っている人が少ないため、『今シーズンは流行するのではないか』という予測もあります」 Q.新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは同時期に接種を受けても問題ないのでしょうか。 森さん「季節性インフルエンザワクチンは『不活化ワクチン』に分類され、異なる種類のワクチンを接種する際に、前のワクチン接種からの間隔を気にせず、次のワクチンの接種が可能です。これは厚労省によって定められているルールです。しかし、新型コロナワクチンは『mRNAワクチン』に分類され、このルールには含まれていません。そこで、先述の厚労省予防接種室に確認すると『異なる種類のワクチンを接種する場合は、新型コロナワクチン接種前後に2週間の間隔を空けるようにしてほしい』とのことでした。 新型コロナワクチンは2回接種する必要があり、例えば、1回目と2回目の間にインフルエンザワクチンの接種は可能かどうかを尋ねると『ファイザー製については標準の接種間隔が3週間であり、“前後2週間”に足りない。モデルナ製は標準間隔が4週間ではあるが、新型コロナワクチンの後にインフルエンザワクチンを接種する場合は、基本的には2回接種完了から2週間以上の間隔を空けての接種と考えている』という回答でした。 ただし、米国疾病予防管理センター(CDC)は、新型コロナワクチンやその他のワクチンはタイミングに関係なく接種できるようになったという見解を示しているので、日本でも今後、接種間隔が変更になる可能性はあります。接種間隔以外は、季節性インフルエンザと新型コロナのワクチンを組み合わせることに対して特段の注意はないとのことですが、同時期に異なる種類のワクチンを接種する際には、発熱や前のワクチン接種部位の腫れがないこと、体調がよいことを確認し、接種にあたって不安があれば、医師に相談することが大切です」 Q.現状のペースでいくと、希望者に対する新型コロナワクチンの接種が完了するのは、いつごろだと考えられますか。 森さん「菅義偉首相は『希望する高齢者に、7月末を念頭に各自治体が2回の接種を終えること』と『希望するすべての対象者への接種を10月から11月にかけて終えること』を目標に掲げています。高齢者については7月29日時点で85.7%が1回接種を、73.1%が2回接種を完了しています。希望する高齢者が最終的にどのくらいいるかが明確ではないですが、8月末には終えることができるのではないでしょうか。 64歳以下も含む、希望するすべての対象者については、7月末現在の接種ペースが滞ることなく進めば、11月末までに7割程度の人が終えることは、計算上では不可能でないと考えられます。しかし、実際には、自治体によって接種の進みにばらつきがあったり、接種ルートの増加で急加速した接種スピードに対して、国のワクチン配布のスケジュールが見合わなかったりといった問題が起きています。また、高齢者の優先接種よりも、接種希望のペースがダウンするのではないかと予想されています。 若い世代では、周囲の接種状況や感染の状況を見てから検討する人も多いと考えられるため、12歳以上のすべての希望者に対する接種が完了するのは2022年になってからではないでしょうか」
オトナンサー編集部
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