「ター坊、あなたはきっと賞
再会したばかりの頃なら、こんなことを言われたら私はきっと、あきれるか怒るかしていたはずだ。
何、勝手に夢みたいなこと言ってんの。第一、私は閉じ込められてなんかいないよ。別に外出だって買い物だって自由にできるもの。私は自分の意志であの夫と結婚して、あの家に住んでいるんだよ――と。でも、今日はもうそんな怒りは湧いてこなかった。
「そうだね」
シャンパンで軽く
もしも賞を獲って小説家になれたら、そのときは離婚に踏み切れるかもしれない。あの家族と縁を切って、家を出て行けるかもしれない。きっと出て行く。
「ねえ、ター坊、たぶん私たち一〇〇歳まで生きないよね」
食事を終え、酔い覚ましも兼ねたコーヒーに口をつけたとき、亜里砂が言った。
「何それ?」
「日本人の女性は世界で一番長生きだけど、それでも平均寿命は八六とか七とか、そのくらいで、大抵の人は一〇〇歳までに死ぬでしょ」
「まあ、そうかもね」
からの記事と詳細 ( ロング・アフタヌーン 第186回 葉真中顕 : ロング・アフタヌーン : 連載小説 - 読売新聞 )
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