認知症になったお父さんは、日付がわからなくなったり、同じことを何度も繰り返すようになったり、うまく歩けなくなったりしていきます。都内で一人暮らしをするあさとさんは、埼玉の実家に通ってお父さんを支えます。でも、介護の大変さ以上に読者の印象に残るのは、お父さんの「かわいらしさ」。 たとえば、認知症と診断されて約1カ月後、実家に帰省したあさとさんは、食卓でお父さんと向き合います。「忙しいのによく来てくれたね」と言うお父さん。あさとさんが、「調子よさそうだね」と言うと、お父さんは目の前にあるお饅頭をむんずとつかみ、もぐもぐ食べながらこう言うのです。 「父さんは、もう せつな的な欲望だけです!」 なんだか文学的な表現であり、哲学的ですらあります。 そしてそのあと、お父さんはこう続けるのです。 「父さんは 昔はもっと がんばろうって意欲があったの」 「今はもう どうにかしようという気が、まったくなくなっちゃった」 「もうね 依存心があるばっかり」 「父さんは」 「バカになっちゃったの」「だから」 「しょっちゅう面倒みに帰ってきてください」えへ 認知症になったことを受け止め、「面倒みてね」と素直に甘えるお父さん。そんな姿が、「ほのぼのする」「お父さん、かわいい」と反響を呼んでいます。著者のあさとさんに、お話を伺いました。 ――認知症は、ご本人が病気であることを受け入れられない場合も多いと聞きますが、お父さんはすぐに受け止めることができたんですね。 最初に行った病院では、父が「おかしい」と感じたことを伝えても、「年のせい」にされてしまい、理解してもらえずにつらかったのだと思います。だから、病名がついたことで腑に落ちたみたいです。
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