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Wednesday, May 19, 2021

「だー」で会話盛り上げ 宍喰・浅川の感動詞 【阿波弁今昔】㊽ - 徳島新聞

 患者が話す方言の意味を医療者が理解できないことがよく指摘されます。私の友人である高知大学の岩城裕之准教授は、この問題解決に取り組んでいます。

 四国の太平洋沿岸地域で「医療者のための方言の手引き」を作成し、自身のホームページで公開しています。南海トラフ巨大地震発生時に、医療者と被災者のコミュニケーションを円滑に図るための手引書です。

 2017年、私は徳島県海陽町宍喰と浅川で彼が行った調査に同行しました。そこで収集された感動詞とオノマトペについて取り上げます。

 宍喰、浅川の感動詞で特徴的なものは、相づちの「はい」に相当する「だー」です。相手からの問い掛けに呼応して応答の発話を立ち上げるもので、方言研究では「立ち上げ詞」とも言います。

 徳島の方言研究者として知られる故川島信夫の著書「牟岐の言葉」(1964年)には、「『昨日はよわったな』『だー』」の例が載っています。「だー」は「そうだな」「そうだね」に相当するものでしょう。後に会話が続いていく様子が想像できます。

 立ち上げ詞は全国的には「はい」「ええ」「うん」「そう」「へえ」などが使われていて、親しみや上下関係などの文脈によって使い分けられます。会話に方言を取り入れることで、話が弾む効果があります。外部から来た医療者も宍喰、浅川では「だー」を使えば、相手との距離がぐっと縮まるのではないでしょうか。

 医療に関わるオノマトペの中で特に注意が必要なのは、体調と気分を表す言葉です。標準語で辛みを感じたり、刺激や痛みが継続したりすることを言う「ぴりぴり」は、浅川では頭痛の場合に使われます。

 宍喰の「ぞんぞんする」は「寒けがする」の意味で、四国のほか島根、岡山、熊本でも聞かれます。標準語の「ぞくぞく」に近いといえるでしょう。江戸時代の文献には、「うきうき」に近い「うれしさに心が浮き立つさま」や、「緊張のあまり震えるさま」「背筋がぞっとするさま」など、幅広い用例が見られます。

 「きゃっきゃがくる」は「いらいらする」の意味です。猿の鳴き声、子どもが戯れて騒ぐときの声を表す副詞「きゃっきゃと」と関係があるのでしょうか。騒がしい声が頭の中を巡ると、確かにいらいらします。

 医療現場では、オノマトペを使うことで自分の症状や気分を的確に伝えることができます。一方、それを他県から来た人が理解できるかという問題もあります。方言の使い手、聞き手ともに注意すべき点です。

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