SCANDALが2021年第1弾作品となるニューシングル「eternal」をリリースした。
昨年、コロナ禍においてツアーの国内公演をすべて中止し、海外公演も延期したSCANDAL。ライフワークであるライブができないという状況に迷いや悩みもあったという彼女たちだが、歩みを止めることなく前へ進む決意を新たにし、今のリアルな思いを込めて新曲「eternal」を完成させた。プロデューサーに旧知のシライシ紗トリを迎え、これまでとはまったく違った制作スタイルを試したという本作には、まばゆいほどの光を放つ未来に向けた強い意志がみなぎっている。
今回のインタビューでは4人に昨年のバンドの状況を振り返ってもらいつつ、本作がどのようにして生み出されたのかをじっくりと聞いた。
取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 伊藤元気
コロナ禍の2020年に気付いたこと
──まずは昨年のバンドの状況を聞かせてください。SCANDALはコロナ禍にあっても、リモートで楽曲を制作したり、配信ライブをしたり、SNSを活用した企画を行ったりとさまざまな物事に柔軟に対応してバンドをしっかり前へ進めてきた印象があります。
HARUNA(Vo, G) 去年は臨機応変に動くことが多かったので、その都度いろんな選択に迫られながらなんとか生き延びることができたという感じでした。ただ、SNSをはじめとするいろんなコンテンツを駆使してできたこともたくさんあるし、それこそ去年の6月に配信リリースした「Living in the city」はステイホーム期間がなければ世に出すことはなかった1曲で。そういう意味でこの1年はいろんなことにチャレンジしようと思えた期間でもあったかなと。
TOMOMI(B, Vo) 「Living in the city」はもともとコロナ禍になる前からあった曲で、東京での日常生活を書いた曲だったんです。そのなんでもない日常が本当に愛しいものだったんだなということをこの状況になって改めて思い知らされたんですよね。なんでもないときに書いた曲だけど、そこに新しい意味を込めてみんなに届けられたこと、そしてそこに共鳴してくれた人がたくさんいたことは、私たちにとってポジティブな出来事だったと思います。
──皮肉ですけど、コロナがもたらしてくれたものもあったと。
HARUNA はい。あと、ライブに関してはやっぱりお客さんがいてこそできるものだなと改めて気付けた1年でもあって。当たり前だと思ってたことが当たり前じゃない、お客さんは本当に大切な存在なんだなとすごく感じました。
──昨年2月リリースのアルバム「Kiss from the darkness」を携えたツアーは国内の全公演が中止に、海外公演も延期になってしまいましたからね。
TOMOMI こんなに長い間ライブができなくてファンの皆さんと顔を合わせないのは、デビュー以来初めての経験でした。そういう時間が続くと自分の中の生命力がどんどんなくなっていくような感覚があって。音楽を聴いていても何も入ってこなくなったときに、「ああ、自分はライブがないとエネルギーが保てないんだな」とすごく思いました。
RINA(Dr, Vo) ライブができなくなってしまったことで、私は作詞面でちょっと迷子になってしまって。今まではライブをする機会があったから言葉がいっぱいあふれていたんだなと初めて気付きました。
MAMI(G, Vo) 僕もRINAと感覚が近いんですけど、3月、4月あたりは気持ちの整理がうまくできなかったから、曲も全然できなかったんです。一度頭をリセットすることも大事かなと思ったので5月に入ってから一旦曲を作るのを諦めて、そのときどきで作れるものを作っていこうと気持ちをシフトしたんです。その間、人間らしい生活が送れたことはすごく意味のあったことのような気がしますね。
RINA そうだね。朝起きて自分の作ったごはんを食べて、毎日家のベッドで寝る生活を送れたことが自分にとってはすごくプラスだった。ツアーでいろんな国を飛び回る生活ももちろん幸せなんですけど、そういった普通の生活もやっぱり大事なんだなと感じました。
MAMI とは言え、やっぱりライブが通常通りにできないことはすごく悔しかったから、ここで止まるわけにはいかないという気持ちは変わらずにずっとありましたけどね。
制限があるライブで手に入れた新たな表現
──そんな中、去年は2本のワンマンライブが開催されました。1本は8月21日の結成記念日に、予定されていたツアーの内容を1公演限定で完全再現した生配信ライブ。もう1本は12月24日に豊洲PITで行われた有観客ライブ「SCANDAL『SEASONS』 collaborated with NAKED」です。
HARUNA 8月の配信ライブでは、目の前にお客さんがいないことの寂しさと画面の向こうにはしっかりファンのみんなが居てくれる心強さが同居する、ちょっと不思議な体験をすることができました。12月のライブは有観客でしたけど、お客さんの声がまったく聞こえてこない状況の中、自分たちのパフォーマンスをしっかり見せなければいけなかったので、それはそれでまた別の不思議な感覚もあって(笑)。
──なるほど。でも「SEASONS」はSCANDALにとって新たな表現方法を提示してくれた革新的なライブでしたよね。
TOMOMI 今まではみんなで一体となるようなライブを中心にやってきましたけど、コロナ禍で声が出せない状況だったので、観ているだけで楽しめるライブをするにはどうすればいいのかをみんなですごく話し合って。結果、映像クリエイターのNAKEDさんに作っていただいた素敵な映像とのコラボでそれを実現できたんです。ああいったライブのスタイルは少しずつ年齢を重ねてきた今の自分たちにはすごくしっくり来る感覚がありました。もちろん声を出して発散するようなライブを今後も続けていきたい気持ちはありますけど、また1つ新たな表現を手に入れることができたなって。
MAMI 例年だとツアーが終わると自分たちのフェーズが変わる感覚になるんですけど、去年は8月のライブが終わったときがそういうタイミングだった気がします。そのうえで12月に新しい形のライブができたことはすごく意味があったなって。もっともっと新しいことをやっていきたいなという気持ちが強くなりましたからね。
TOMOMI そうだね。止まってた血が一気に循環し始めた感覚があった。
HARUNA うん。今年が結成15周年だっていうことも大きかったとは思いますね。各自が迷い、制作がストップしかけた時期もあったけど、15周年という節目がまた動き出すための大きな原動力になったなって。ガールズバンドを15年続けている意味や強さみたいな部分をこのタイミングで改めて表現したい、しっかりと世に残したいという気持ちがあったので。
シライシ紗トリと雑談、レコーディングを繰り返して
──昨年10月のRINAさんのブログには、「最近ちょっと今までと違う作り方を試したりしてて、演奏する場所とか集まる人数とかガラッと変えてやってみてる」と記されていましたよね(参照:SCANDAL 公式ブログ - 新曲 - Powered by LINE)。
RINA はい。まさに今回の「eternal」からそういう作り方に切り替えてみたんですよ。昔からお世話になっているプロデューサーのシライシ紗トリさんの自宅にある小さなスタジオにメンバー1人ひとりが順番にお邪魔して曲を仕上げていくスタイルで今回はやってみたんです。紗トリさんは音楽のこともプライベートなことも何でも話せる先輩みたいな感じなので、そういった関係性の中でこそ生まれるものがあるんじゃないかなと思ったんですよね。
──1月末からYouTubeで公開されているドキュメントシリーズ「"her" Diary 2021」で観られるのが、その制作の様子ということなんですか?
HARUNA そうですね。映像の中で私としゃべっているのが紗トリさんです。基本的には完全に2人だけでの作業になるので、自分が思ってることを話しながら歌を録り、それを2人で聴きながら、またいろいろ修正していくという作業でした。そういうやり方はすごく新鮮でしたし、今まで以上に自分の歌に責任を持つことの大事さを感じました。今までのように各メンバーがディレクションしてくれる中で録っていくのも、自分にはない歌い方を引き出してもらえて、それはそれでいい方法だと思うんですけど、今回はもうちょっと自分の内側にあるものを自分で引き出して歌に乗せたい気持ちがあったんです。そうすることでもっと聴いた人の深いところまで届く歌になるんじゃないかなって。
──映像を拝見すると、かなり本音を吐き出している感じですよね。
HARUNA そうそう。自分が自分に対して思うイヤな部分とかを紗トリさんに向けて全部吐き出しましたからね(笑)。そうするとわりとスッといいテイクが録れたりもするんですよ、不思議なことに。自分の中だけでは消化しきれないものを第三者に受け止めてもらうことで出てくるものもあるんだなと思いました。
RINA HARUNAの歌を聴かせてもらったとき、確かにいつもとは違う、初めてのニュアンスが込められているなと感じました。その歌ありきでリズムを録り直したりもしていて、曲の出だしの雰囲気や2サビでゆったりとしたリズムになるところなんかは、HARUNAの歌を聴いたことで浮かんだものなんです。
──楽器のレコーディングに関しても同じように個別で作業していったわけですか。
RINA そうです。自分のパートは各自が責任を持って満足のいくレベルまで仕上げました。ドラムはパソコンでいろんな音色を試しながらパッドを叩いて録っていって、録り終えたものをみんなにシェア。そこにまた次の人が音を重ねていくという感じで進めていきました。紗トリさんの自宅スタジオというミニマムな環境の中でできたからこそ、「やっぱりここのフレーズ変えたいんですけど」という感じにすごくフレキシブルにできて。ボーカルは3回くらい録り直してるし、さっき言ったようにそれに合わせてリズムを変えたりもしてますからね。全員が「完璧!」と思えるところまで何度もやり直して完成までたどり着けたのは、コロナ禍で時間をたっぷりかけられたからだと思います。
TOMOMI 今回のようなやり方は各自がすごくリラックスした状態でレコーディングできるのがすごくいいところだと思うんですよね。私の場合、紗トリさんのスタジオに行ったらまず2時間くらい雑談して、30分くらいベースの音を録って、また2時間雑談して帰ってましたから(笑)。そういったリラックスしたムードもそうですけど、紗トリさんのアンプを借りたので、サウンド面でもいつもとは違うものが作れました。
MAMI 僕も最初に1、2時間雑談してから録り始めました(笑)。ギターを弾いたあと、また1時間くらい雑談して帰りました。
TOMOMI 雑談大事よね(笑)。音楽とは関係ないことを話していても、それで気分がノッてくるからプレイにも影響するんです。
MAMI そうそう。変に真面目になりすぎなくていいし、気持ちが温まった状態で演奏できるというか。そういう環境でレコーディングできたからこそ、今回のメロディや歌詞にふさわしいサウンドが作れたんだと思います。
──完成に至るまではどのくらいの時間をかけたんですか?
RINA めっちゃ録り直したからね、どれくらいだろう?
MAMI 僕がデモを上げたのが7月で、そこからたぶん3、4カ月くらいはやってたと思う。本番のレコーディングをするまでも、じっくり時間をかけたしね。普段だとそんなことはあんまりないんですけど。
HARUNA 「“her”Diary」で使われてた映像はたぶん10月くらいだったと思うけど、そこからまた何回もああいった作業を繰り返して、またドラムも録り直してみたいなのをやってたもんね。
──新しいスタイルでレコーディングを進める中、楽曲の完成図に関してはどんなイメージを持っていたんですか?
RINA そこは制作の最初の段階でみんなでたくさんミーティングをしたんですよ。まず浮かんだのは、始まりや幕開けを感じる曲であること。そして(大阪)城ホールで強い光を浴びながら歌っているイメージ。色で言えばちょっと淡い感じで、布だったらシアーな感じとか。ニュアンス的なイメージではありましたけど、そこでなんとなく方向性は決まったんです。そこからMAMIが弾き語りでデモを作ってくれて。
MAMI うん。ミーティングで曲のニュアンスがたくさん出たので、イメージはけっこうしやすかったかもしれないです。
RINA あと最初の時点でテンポ感も決めたね、確か。
MAMI そうだ。今まであまりやったことのないテンポとリズムにしたいっていうイメージもありました。
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