林業における再生(リジェネレーション:regeneration)の兆しとはどのようなものだろうか。個人、組織、地域や業界、そして社会の再生について、いまさまざまなスタイルで林業に関わるミレニアル世代の横顔から描き出してみたい。第1回は、広島県で林業を起業した田丸光起に話を聞く。
「林業舎雨と森」の二人。右が田丸光起 |
田丸 光起 (たまる・こうき)
1988年生まれ広島県出身。東京農業大学卒業後、東京チェンソーズで勤務。その後、林業団体や森林組合で経験を積み、故郷の広島で2019年「林業舎 雨と森」を起業。筆者とは同い年で、若手林業ビジネスサミットなどで学びを共にした。今回、オンラインインタビューで久しぶりに語り合う。
林業人生のはじまりは「東京チェンソーズ」
井上:今日はミレニアル世代が描く林業ということで、田丸君の話を聞かせてほしい。私だけで林業を語るには、限界があるからね。まずは改めて、今の仕事やこれまでの経緯を教えてください。
田丸:今は僕を含めた個人事業主2人の共同で林業事業体「林業舎 雨と森」として活動しています。僕は広島市出身で、母親の実家がここ安芸太田町(旧戸河内町)だった。子どもの頃から夏休みに連れられて来て自然の中でよく遊んでいた記憶があって、それは間違いなく今の仕事を選んだことにつながってるだろうね。
高校を卒業して東京農業大学の森林総合科学科に進んだのは、将来デスクワークをするのが性に合わないと思ったから、森に関わる勉強をしたらフィールドに出る仕事に就けるのかなっていう単純な理由で。在学中は探検部に入って、あちこちの山や川を旅していた。卒業後はその探検部のOBである東京チェンソーズの青木亮輔社長に誘われて入社。森林総合科学科にはいたけど、青木さんに誘われるまではあまり林業を意識したこともなくて、そこが林業との出会いだった。
東京チェンソーズ時代の写真 |
井上:田丸君が今やっている林業の形というか、感化された入り口はやっぱり青木社長だったのかな。
田丸:そうだね。山を所有しない請負林業という今のスタイルは、当時のチェンソーズの真似事に過ぎないと思ってる。これまで身に着けてきた技術がどこまで通用するのか、今は自分の責任のもとで大きな実験をしているような感覚。それができたら次のステップがあって、自分のオリジナリティも出てくるはず。
樹木の治療や危険木処理として行う特殊伐採 |
井上:人工林の伐採や保育の請負だけじゃなく、特殊伐採や広葉樹林の手入れもやっているみたいだね。
田丸:昔、特殊伐採が得意な会社と一緒に仕事をする機会があって、手伝いながらやり方を覚えた。その中で今の仕事のパートナーであり樹木医の後藤智博さんとも出会って、二人で技術的なところをすり合わせながら、「雨と森」の事業の一つとしてやっている。ただ僕はあくまで林業がしたいのであって、伐採屋さんにはなりたくないと思っている。
“ただ困っているから木を伐る”というところを落としどころにはしたくなくて、できるだけ木を残して生かしたり、山や木と長く付き合えるようなスキルや提案力を磨いてビジネスの一つにしていきたい。木を伐る、残す木を選定する、どんな植物があるかを具現化してマップに落とすとか、そういう造園ともちょっと違うんだけど、小さな緑のある空間を管理させてもらうようなサービスもできるようになりたい。
「雨と森」に込めた山との向き合い方
井上:「雨と森」という素敵なネーミングの由来は?
田丸:これまで林業会社の社名といえば「○○造林」とか「○○林産」とか、人間が山を人工林という木材の培養地に仕立てて、人間の都合で伐採生産していくという意味合いが強かった気がするんだよね。人工林を教科書通りに仕立てていくというのは、これまでの戦後一成造林という大きな社会的な試みの中で、もう成功と失敗がある程度出てきている。その成功や失敗の背景にはその時の社会情勢や立地条件があって、今後もそのやり方を鵜呑みにして続けていくのは、ビジネスとして林業をやっていく上でリスクになり得ると思っている。
井上:みんなが同じ林業をしてしまうと、何か問題が起きた時に総倒れになってしまう可能性がある。
田丸:これからは林業においても持続可能性とかリジェネレーションというのが大事になってくる。広島の県北には立派な用材になるような広葉樹も少しあるんだけど、人工林だけでなく自然の力で生えている広葉樹の森にも関わって、積極的に手を入れるというより自然の成長に委ねつつも木々の恵みをいただいていく。そういうゆるやかな山との付き合い方というか距離感の林業をやっていきたくて。山って本来は、人間がいなくても森に雨が降れば育つでしょ?そこに第三者として人間がいる、そういうスタンスを込めて「雨と森」になった。
井上:物語が浮かんでくるようないい名前だよね。写真を見ると、広葉樹林に美しい道がついている。そんな林業を志すようになったのはなぜ?
田丸:僕が林業を始めて数年経ったときに、国の施策として欧州型の林業を目指す方向性になって、林業が変わっていく期待が大きかった。将来は、森林に対する哲学や管理のノウハウを持ちながら、素材生産業となれば誰にどんなクオリティの丸太を提供するのか、コストに見合うパフォーマンスをいかにしていくかという、そういう客観的・戦略的な林業ができているものだと思っていた。
けど実際、現状はあまりそこに向かっていないと思う。全国的にバイオマス発電用の燃料になるB材・C材の単価が上がってきたことを背景に、長期的な森林の経営や管理を差し置いて、実際には大型機械が入りやすくてペイできる山だけを伐りまわっている印象が強い。僕らが格好いいと思っていた未来の林業とは若干違っている。それに対する対抗意識というか、それって持続性があるの?という疑問があって。
井上:そういう憤りが、独立するきっかけにもなったのかな。
田丸:最初から独立するつもりだった訳ではなくて。林業を始めてある程度経験を積んでいたし、30歳を前に家族を連れて広島に帰ってきて森林組合に就職して、そのまま勤め続けるのもいいと思ってた。ただ実際に仕事してみると、森林所有者さんとコミュニケーションをしながら理想の山に近づくような施業を提案するというよりは、補助金が適用される仕様に合わせて、やりやすい山に絞って事業を進めてしまう部分がどうしてもあって。補助金の予算消化が先行しすぎて、手段が目的になっているというか、それが本当に自分がやりたかったことなのか?って。
そう思ったものの、論破できるほど僕は話術が巧みじゃないから(笑)。やって見せるしかない。自分の技術で、人が伐れない木があれば安全に伐って見せて、使える補助金のメニューがなくても将来的に利益を出せる山づくりを提案して、山を活かせるんだと言いたかった。それが独立したきっかけかな。
林業のスタイルに正解はあるのだろうか
田丸:20代の頃はとにかく林業について知りたくて、手当たり次第色んな人に会いに行った。チェンソーズにいたある夏休みに、四国の2人の林業家さんを訪ねたんだけど、その時たまたま見せてもらった2つの山が、僕がそれまで見てきた人工林とは全然違って。“美しい森は生産性が高い森だ”というドイツ林学者の言葉もあるけれど、いい森だなと思っちゃったわけよ。結局違うのは、その山にちゃんと所有者さんの想いがあるってこと。
どういう山をつくりたいのか、何を大事にしたいのかという思いがあれば人によって全く違う山になっていく。結局林業っていうのは、山が本来持っているポテンシャルを引き出すことしかできないんだろうね。自然をよく観察しながらどこに道を付けてどう仕立てていくと生産性の高い山ができるのか、日々考えながら山と付き合っていかないといけないと感じた。
井上:違う世界が見えたわけだね。
田丸:井上さんが書いていたように、林業にもワインのような違いがあるというか。産地や携わる人により山が違う、そういう可能性に触れたというのは、自分が林業に対して情熱を傾けたくなった要因の一つだろうね。
思いを感じる山との出会いが、林業に対する見方を変えた |
田丸:最近のトレンドで言うと、「○○式」とか「○○型」とか、パッケージになった方法論から林業に入ってくる人が多いように思う。この道の付け方しかダメ、こういう伐り方をしたらダメ、みたいな。それは従来のやり方へのアンチテーゼとして、振れ幅の一つだとは思うけど、そうすると結局は思考停止してしまうんじゃないかな。
井上:これまでの林業界を見ているとどうしても、「これが林業再生の唯一の道だ!」みたいな方法論に突破されてしまいがちなのは何でだろう。
田丸:林業は長いスパンがかかって成果が見えるから、本当の意味で答えを知っている人は少ない。だからこそみんな救いを求めていて、期待感とちょっとした説得力があれば、すぐにそっちになびいてしまう傾向がある。僕らが林業に関わってたった10年でこれだけトレンドが目まぐるしく変わっていくんだから、やり方が淘汰されるのも早いだろうね。でも山は100年とか200年というスパンで動いているから、ブレずに自分が見てきたものを信じて森づくりに関わっていけばいいのかなと。
井上:なるほどね。ここまで思いをたくさん語ってくれたけど、どうやら色々と言いたいことが溜まってた感じがするね(笑)。
田丸:うん、今日はすごく楽しいね(笑)。こういう話をすることが最近あまりなかったから。地域や同業者の人とも、山について語れる機会って案外少ないからね。
後編へつづく(明日公開)
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