ポーランドのゲームスタジオCD PROJEKT REDが制作したアクションRPG「サイバーパンク2077」。予約分だけで800万本を突破し(世界累計)、発売日の12月10日には日本でも関連ワードがTwitterトレンド入りするなど話題になった。近未来が舞台のSFゲームだけに見慣れないアイテムやテクノロジーも多く登場するが、開発チームによれば現実世界の技術も参考にしているという。
サイバーパンク2077は、舞台となる世界を自由に散策・移動できるオープンワールド型のゲーム。プレイヤーは主人公「V」(ヴィー)を操り、架空の大都市「ナイトシティ」を舞台に自身の脳に埋め込まれたチップ(インプラント)の謎を追う。ナイトシティでは買い物やドライブ、恋愛、銃撃戦などさまざまな体験ができる。
(以下、ゲームのネタバレを含みます)
ナイトシティで見かけるテクノロジー
タイトルにある「サイバーパンク」とは、SF(サイエンス・フィクション)のジャンルの1つだ。「人間の精神とインターネットのつながり」「過剰な資本主義によって進んだ企業支配」「アジアンな雰囲気漂う繁華街」「人体の機械化など、異常に発達したテクノロジー」──といった描写を特徴とする。日本では「攻殻機動隊」などの作品が知られている。
サイバーパンク2077では、中でも「異常に発達したテクノロジー」がストーリーにおいても重要な役割を果たし、プレイヤーが使うアイテムや装備としても活躍する。「吸引するだけですぐに体力が回復する薬」など、フィクションらしいものも少なくないが、中には現実世界で注目されているテクノロジーも登場する。
CD PROJEKT REDのパトリック・ミルズさん(シニアクエストデザイナー)によれば、ゲームに登場する技術の多くは、原作であるゲーム「サイバーパンク2.0.2.0」の設定を参考にしているという。
だがミルズさんをはじめとした開発陣は「フィクションとはいえ、サイバーパンク2077は発展した技術を扱っているゲーム。もし時代が進んでも、登場するテクノロジーが“ダサく”見えないようにしたい」とも考えていた。そこで現実世界の技術を調査し、得た知見をテクノロジーの見た目や設定に反映したという。
例えばナイトシティには、VRに似たBD(ブレインダンス)というテクノロジーが存在する。これは人間の頭にレンズのない大きな眼鏡のようなデバイスを装着し、脳に信号を流すことで仮想現実を体験させる技術だ。
VRは主に人間の視覚や聴覚を刺激するが、BDは人間の記憶を追体験するための技術で、五感に加えて感情も再現する。ナイトシティでは主に性に関する記憶や、現実では得られない危険な体験を疑似的に味わう娯楽として消費されている。
ミルズさんによると、BDの設定や見た目を決める際は、リアリティーを持たせるために電磁石を使って脳に磁気的な刺激を与える「経頭蓋磁気刺激法」という医療法や、VRといった技術を調査したという。ときには外部の専門家を呼び、開発チーム内で議論を重ねてどんな外見や仕組みでゲームに登場させるか決めた。
その結果、現在のVRが主に視覚と聴覚を刺激する技術であることを踏まえ、ゲーム内に登場するBD用のデバイスは目や耳を覆わない見た目にしている。ミルズさんによれば、五感だけでなく感情や記憶を追体験するテクノロジーであることを強調する目的という。
AIの話し方はチャットbotをイメージ
現実世界ではさまざまな分野で活躍しているAIも、ナイトシティではよく見かける技術だ。AIアシスタントのような人間と会話できるAIが登場する。
例えば、ナイトシティのタクシーサービス「デラマン・タクシー」は、利用者と音声で会話し、車両の特徴などを案内するAI「デラマン」を搭載している。デラマンは主人公と深く関わるキャラクターでもあり、トラブルの解決を頼まれることもある。
ミルズさんによれば、デラマンは現実世界のAIチャットbotをイメージし「会話は成り立っているが、人間のように行間を読み取れない」話し方にしているという。
実際にデラマンと会話してみると、確かにチャットbotと話しているように感じる瞬間がある。例えば、デラマンのバックアップデータが原因不明のトラブルで自我に目覚め、錯乱してタクシーで街を暴れまわる場面。バックアップのデラマンは、オリジナルを父親のように感じていることが明らかになる。
バックアップのデラマンに「父親と向き合うように」と話していた主人公は、オリジナルに「(バックアップは)愛情に飢えてるみたいだぜ」と暗に反省を促す。だがオリジナルのデラマンは真意を理解できず「申し訳ありませんが、おっしゃっている意味が分かりません。それよりも、他の問題を解決する必要があります」と答える。
現実世界を参考にできなかった技術も
ナイトシティでは人体に機械やチップを埋め込むインプラント技術が広く普及し、主人公が出会うキャラクターのほとんどが体に何かしらのチップや機械を埋め込んでいる。プレイヤーは主人公の体に新たなインプラントを追加することで、身体能力を強化できる。
現実世界ではイーロン・マスク氏が創業した米Neuralinkが、8月にブタの脳にチップを埋め込み、神経の活動を記録するデモを行ったことが話題になった。しかしミルズさんによると、人体へのインプラントについてはフィクションとしての都合や原作を参考にした部分が大きく、現実世界の出来事や技術はあまり取り入れていないという。
一方、調査を重ねた結果、設定を当初の想定から変更せざるを得なかったものもある。サイバーパンク2077には現実でいう「空飛ぶクルマ」に近い「AV」(エーヴィー)というテクノロジーが登場しており、これはスラスター(推進システム)を使って浮遊しているという設定だ。
「当初は磁力で浮遊している設定にするつもりだった。だが本当に磁力を使って飛んでいることにすると、ナイトシティが強力な磁場を持つ土地の上に存在しなければいけないことが分かり、設定を変更しないと他の電子機器を登場させることができなかった」。フィクションでも「何でもあり」にはしないのが開発陣のこだわりの1つだ。
そんなミルズさんだが、ゲームの開発を通してさまざまな技術に触れた結果、AIやVRといった現実世界のテクノロジーに可能性を感じ「今後いろいろな変化が起こることは間違いない」と思うようになったという。
中でもAIについては、調査を重ねたからこそゲーム内での描写や説明が不足していると感じる部分もあり「今後の拡張コンテンツなどで掘り下げていけたら」としている。
街中をただ眺めたり、バイクで街を走ったり、悪人を成敗してみたり──オープンワールド型らしく、さまざまな遊び方を許容するサイバーパンク2077。かくいう記者も数あるシナリオ分岐のうち1つしかクリアできていないが、現実世界の延長上にあるテクノロジーを観察する遊び方も面白いかもしれない。
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