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Tuesday, June 9, 2020

経営者にとって倒産危機は激しいストレス……新型コロナで「うつ病」の危険も - 読売新聞

 新型コロナの感染拡大防止の対策は、外出の自粛なので、企業活動に大きな制約となり、中小・零細企業が受けるダメージは大きいことでしょう。今回のウイルス感染と社会への影響は経験のないものですが、過去に不況で会社整理に追い込まれた事例を経験しました。個人の努力では追いつかない事情で、経営が傾いてしまうという意味では共通するところもあります。社員20人規模の宝石・貴金属会社の社長が、急激な売り上げ減少に対応できず「会社整理」に追い込まれ、「うつ病」になってしまいました。会社がなくなる事態、喪失感情が、いかに精神的なトラウマを与えるかを知っていただければ、という思いを込めて紹介します。

経営者にとって倒産危機は激しいストレス……新型コロナで「うつ病」 の危険も

イラスト 赤田咲子

宝石や貴金属のニーズが減少

 青田幹夫さん(仮名)は50歳の宝石・貴金属会社の社長。グローバル化や消費者ニーズの変化で、売り上げが低下し続けています。父が一代で創業した会社で、20人の社員を使い、製造販売を行ってきました。9人いた技術者を5人に減らしました。長年勤務し、50歳近い彼らを退職させるのは、身が切られるほどの、つらい思いでした。

 以後3年は何とかしのげたのですが、景気悪化に伴い再び厳しい状況に追い込まれ、寝食を忘れるほど対応に没頭しましたが、うまくいきません。心身の不調を来しました。心配した妻に付き添われ、かかりつけ医を受診。主治医は「メンタル不調」を考え、私に紹介してきました。妻同伴の受診です。

資金繰りが難しい

私   :精神科医の夏目です。紹介状がありますので概略はわかります。落ち込んでいますね。

青田さん:先生、気力が出ないんです。かかりつけ医から「うつ病」の可能性もあると言われ、紹介されて受診しました。

私   :いつ頃からでしょうか?

青田さん:半年くらい前からかな、はっきりしたのは。私は貴金属会社を経営していますが、売り上げは年々低下しています。

私   :そうですか。 

青田さん:受診したのは再び経営悪化で、会社がやばいから。

私   :今度こそ会社が危ない、と。

青田さん:そうです。考え出すと寝付けません。眠りに入っても2、3回は目覚めて、悲観的になって眠れないです。浮かぶのは仕事のことばかり。どんどん悲観的になっていくばかりです。

私   :つらいね。

青田さん:資金繰りで、ほとほと疲れましたよ。

私   :う~ん。

青田さん:今回の不況でガクッと売り上げが落ちました。ぜいたく品だという意識になったのでしょう。

私   :なるほどね。それで。

青田さん:このままいけば、倒産になります。父が創業した会社をつぶしたくはない。何とかしようと思って、地方銀行や信用金庫などに日参していますが、資金繰りが厳しくて……。

いま整理すれば社員に退職金が払える

私   :倒産するかもしれない。

青田さん:妻と話し合いました。妻は「いま会社を整理すれば、社員に少ないが退職金が払えますよ。20~30年働いている人たちだから、路頭に迷わすわけにいかないでしょう」と言います。それで、目が覚めました。父の会社だから潰していけない、とばかり思っていましたが。

私   :そうでしょうとも。

青田さん:それを決めてから気持ちが多少なりとも冷静になりました。社員に説明をしたら納得してくれたのが、せめてもの救いです。

私   :疲れ切っていますね。「うつ病」が考えられます。

青田さん:「うつ病」ですか……やはり。「ふいに死んでおわびをしたい」という衝動が突き上げてきます。

私   :病気がそうさせています。治療が必要です。良くなりますよ。

青田さん:先生にお任せします。

「発作的な自殺衝動に注意を!」と妻に伝える

私   :奥さんの協力が、さらに必要です。治療すれば、良くなります。発作的に自殺をする可能性がありますから、気を付けてください。

妻   :気を付けます。ほかに何か。

私   :今までと同様に温かいまなざしで、ケアをよろしくお願いいたします。

 精神科受診に至るまでの夫婦の会話を再現します。

妻   :あなた、疲れてますよ。疲れすぎです。

青田さん:会社がのるかそるかの瀬戸際だよ。

妻   :今度が2回目ね。

青田さん:本当に潰れるよ。今から思えば、前回はリストラする余裕があったが、今回は持たない。資金調達もできないし、倒産するよ。

妻   :会社も大事だけれど、私はあなたの健康が心配よ。体というよりは、あなたの心が崩れていくように思えて……。

青田さん:がんばるしかないんだ。オヤジが苦労して創業して、多くの社員の働きでやってきた会社だ。オヤジそのものだ。会社は絶対に、つぶせない!

妻   :銀行の人や税理士さんに聞いたら、「今、思い切って会社を整理すれば、社員の退職金を払える」と言っていましたよ。幸い借金もあまりないしね。

青田さん:俺から会社を取ったら、何が残るんだ。もう、死ぬしかない。

夫であり、子どもたちの父親ですよ!

妻   :気持ちはわかるのよ。でも死んだら、子どもたちが悲しみますよ。「お父さんは私たちを見捨てた」とトラウマを作るよ。あなたは、お父さんに申し訳ないと言いますが、私の夫であり、子どもたちの父親ですよ。それを忘れないで。

青田さん:そうだね。

妻   :会社を整理し退職金を出し、しばらく休養を取って、次の人生を考えましょう。

青田さん:会社が、すべてではないか……。

妻   :そうよ。あなたには、私と2人の子どもがいるのよ。2人で大切に育てた子どもよ。

青田さん:そうだなあ。

妻   :第2の人生があるのよ。

青田さん:うん。

妻   :主治医から紹介された専門医に行きましょう。私も付いていくからね。

青田さん:ありがとう。

妻   :2人で、子どもも入れて4人で再スタートしましょう。

青田さん:明日、行くよ。

過労で心身ともに消耗したうつ病

 主治医として対応した事例です。過労で心身とも消耗した「疲弊性うつ病」と診断し、休養と加療を勧めました。クスリの投与と休養で軽快していきました。

 以後カウンセリングを8回くらい続け、社会復帰しました。その過程で、「なんのために一生懸命働いてきたのか、むなしい」「オヤジに申し訳ない。ふがいない」「でも従業員の退職金は払えた」「家族との絆があったから、救われた」と涙ながらに語りました。

 半年後に、彼の能力を評価していた同業の社長の引きがあり、番頭格で再就職できました。もっとも、収入は半分になったのですが。「倒産」が最大ストレスであるのを、わかっていただければ、と思います。

  最後に、「マコトの一言」で締めさせていただきます。

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June 10, 2020 at 03:20AM
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