4月中旬、アルゼンチンの『Club Universitario de La Plata』(ULP)が公式SNSでイタリア代表として142キャップを持つセルジョ・パリッセのインタビューを公開した。これは、先日掲載した「Vol.1」の続き。
インタビュアーは現ULPトップチームのFL兼中学部門統括、パリッセの元チームメートが務めている。パリッセはアルゼンチン生まれ。ULPでプレーしていた。
2007年のW杯について聞かせてよ。僕らアルゼンチン人からすると、2007年大会はプーマスの躍進として強く記憶に残っている、君にとっても25歳でキャプテンとして迎えた最初のW杯で、特別な思い出があるんじゃない?
「2007年大会は、実はまだキャプテンじゃないんだ。W杯後からキャプテンになったからね。
大会自体はイタリアにとってはすごく悔しいものだった。決勝トーナメント進出をギリギリで逃した。プール戦でスコットランドに16-18で負けた。その試合、僕らはPGを3本外し、勝てる試合を逃した。結果、プール戦で敗退したんだ。悔しかった。(僕らに勝った)スコットランドは準々決勝でアルゼンチンと当たり、負けた。アルゼンチンは3位に輝いて、本当に素晴らしいパフォーマンスだったね」
アルゼンチン代表にはピチョットはじめ、スタッド・フランセでプレーしているメンバーたちがいた。それ以外にも、ヨーロッパの他国で経験を積んだ選手が揃っていたのも大きかった。
「当時はいまみたいに、スーパーラグビーにハグアレスが参加していたわけでもなかったから、アルゼンチンの選手が世界レベルを経験するには、言葉が覚えやすいフランスが主流だった」
これまでにW杯に5回出場してきて、大会ごとにどんな違いを感じた?
「まず言えるのはラグビーという競技自体が大きく変わってきたことだね。スクラムもモールも、ブレイクダウンのレフリングも大きく変わった。僕自身は、5回という回数にもちろん重みを感じている。当然だけど、それぞれの大会を人生やキャリアの異なるフェーズで経験することができた。すごく幸運なことだったと思う。例えば20歳で迎えた2003年の大会は雰囲気に飲み込まれてばかりだったし、2007年はシンプルに実力不足を感じた。悔しさと、成長へのモチベーションを抱いたね」
2015年大会は?
「個人的にいちばん苦い想い出になっている。その年のトップ14をスタッド・フランセで優勝してたのに加え、フィジカル、フィットネスも絶好調だった。自分のキャリアのピークだと思って挑んだ大会だった。だけど、何事もそうは上手くいかないもの。大会前のウエールズとの調整試合でハイボールの競り合いのとき、(相手SOダン・)ビガーの膝がふくらはぎに入った。試合後はかなり腫れ、歩くのも辛かったけど、打撲だし、W杯まで2週間あるから大丈夫だろうと思っていたら…パリに帰った次の日、内出血がひどくなった。ふくらはぎに血が溜まりすぎて緊急手術になったんだ。そんなに大きな手術じゃなかったけど復帰までに1か月かかった。そのせいで、大会の最初の2試合には出られず、決勝トーナメント進出のために絶対に勝利が必要だったアイルランド戦は60分が限界だったね。その試合は僅差で敗れ、またノックアウトステージに進めなかった。大会前に期待があった分、落ち込みもしたけど、人生はそういうものだと今ならわかるよ」
去年の日本での大会は、どうだろう。
「うん。色々あったね。最後の試合(ノックアウトステージ進出がかかったNZ戦が台風で中止となった)については色々思うところもあるし、その時は少し文句を言うようなこともあったけど、運命みたいなものを信じているから、あれで良かったのかもしれないと、いまは思う。1試合できなかった悔しさより、36歳で5回目のW杯に出られたことへの感謝の方が強いね」
代表引退についてはどう? みんな、まだプレーしてほしいと思っているみたいだけど。
「いま必要なのはエゴを捨てること。ベテランになって、そう思うんだ。代表での18年で自分にできることのすべてをやってきた。これからは、次の世代に道を譲ることを考えないといけないと思った。あと数試合でリッチー・マコウの持つ歴代最多キャップ数を更新できるとか言われるけど、自分自身、記録にはそこまで興味がない。もうすぐ37歳になる。体力的にも、いまが引き際かな、と思っている」
記録に関して言うと、シックスネーションズの最多キャップ保持者だよね? もっと伸ばせるのに。
「そうだね。でも、若手にプレータイムを与えないといけないと思う。こんな年齢で監督にアピールするようなものもない。それより、僕が与えてもらったようなチャンスが、若手に巡るべきだと感じる。W杯が終わって区切りもいいし、僕が代表に残って数キャップを『盗む』より、大事なことがたくさんあるだろう」
代表の若手やリーダーグループとはまだ連絡を取っているの?
「もちろん。コーチ陣も育成年代からトップまでみんな知っている。マネージメントスタッフもみんな旧知の仲だからね。政治的な議論はあまり好まないから、協会のプロジェクトも、政治的でないものには参加しているよ。政治的なものが好きではないのは、おそらく、自分の考えを自分の行動で示すことが好きだから。政治は自分の考えではなく、限定された状況で妥協案を探すことを求められているみたいでどうも苦手。僕はきっと、現場が向いているんだね。代表についても育成にも、僕に手伝えることがあればなんでもしたいと思っている。スキルや人格形成のプログラムの議論にも参加しているんだ。イタリアでラグビーは、国でいちばん人気のあるスポーツというわけじゃないから、さらなる成長のためにも力を貸すつもりさ」
W杯への出場は続けているけど、イタリアのラグビーは長年、中堅というイメージ。強豪国になり切れていないような気がする。イタリアがさらに上のレベルに行くには何が必要?
「僕が思うに、強豪国に少ない点差で食らいつくこともある中で、しっかりキックなどで得点を重ねる力をつけると変わる部分があるかもしれない。(元イングランド代表のジョニー・)ウィルキンソンとは言わないけど、彼くらい正確なキックと、プレッシャーへの強さを持った選手が現れるといいね。
ここ15年、イタリア代表には、SO、SHに安定したパフォーマンスを見せ、核となれる選手が少なかった。選手層という問題は、他のポジションでも常に抱えている。大きな大会に参加するクラブチームが、イングランドやフランスと比べ格段に少ないからね。協会の構造や、育成へのマインドを、まだまだ改善しないといけない。もっとも、代表チームが結果を残せていれば、もっとスムーズに強化が進むんだろうけど、実際は代表と、代表に行くまでのプロセスが互いに足を引っ張っているという側面は否めない。
今後は競技人口を増やすことが第一だと思う。ピラミッドの下が広がれば、上の質も高まるからね。イタリアが、歴史のあるイングランドやウエールズ、アイルランドのようなシステムになることは決してないけど、それでも彼らに食らいつくためにできることはたくさんある」
アルゼンチンも似たような状況。ハグアレスの躍進で去年のW杯も期待されていたけど、世代交代を進めた結果若い選手が多かったこともあり、勝てなかった。マリオ・レデスマ監督は経験不足を補うため、例えばSOにハグアレスの2人でなく、フランスでプレーしていたペンハミン・ウルダピジェータを呼んだ。ティア2のチームがティア1に追いつくには何が必要なのだろう?
「結果を犠牲にする時期は必ず出てくると思う。長期のプロセスの一部として、負けを受け入れることも仕方ない。先の目標を見失わないことが大事。ただラグビーが難しいのは、上のレベルに追いついたかどうかが分かりづらい。1試合の結果で判断はできないからね。例えばイタリアは、2016年にフィレンツェで南アフリカを破ったけど、あれは相手の不調もあった。その試合で勝った僕らと南アフリカを昨年のW杯の結果で比べると、両チームの立場は明らか。継続的に高いレベルを保つことが強豪の条件だと思う。
アルゼンチンはここ数年、結果を犠牲にしている段階にあると思う。ザ・ラグビー・チャンピオンシップで他の強豪3か国に混ざって戦うのは楽じゃないだろうし、勝つことも難しいけど、長い目で見ると非常に大事なこと。イタリアは毎年シックスネーションズでほぼ全敗し、なかなかそこから抜け出せないけど、いつか牙を剥く日がくると信じている」
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May 04, 2020 at 05:55AM
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セルジョ・パリッセ(イタリア代表キャップ142)、友と「人生を語る」vol.2 - RUGBY REPUBLIC(ラグビーリパブリック)
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