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Thursday, April 2, 2020

キレイな鳥!ねえ、色はマジックで塗ってるの? - 読売新聞

三つ子ちゃん×辻仁成 子育てエッセー第9回

(c)Nicole Lambert

マダム ほら、見て、私の鳥よ。私がお世話をしているのよ。
-うわぁ!! すっごくキレイな鳥!
-ねえ、色はマジックで塗ってるの?(訳・辻仁成)

生き物を飼うというのは大変なことなんだぞ~エッセー・辻仁成

 息子が物心ついた頃、犬を飼いたい、と駄々をこねたことがあります。はぐらかしていたのですが、翌年も、その翌年も、犬を飼いたい、と言い続けました。結局、小学校にあがっても、犬を飼いたい、と言っていました。でも、パリにいつまでいるか分からないので、ぼくは笑ってごまかすしかなかったのです。

 かくいうぼくも小さい頃ずっと両親に、犬を飼いたい、とお願いしていました。でも、両親は転勤族でしたから、犬を飼うことは許されませんでした。

 「ひとなり、生き物を飼うというのは大変なことなんだぞ。会社の事情でいつどこに引っ越さなければならないかわからないから、うちでは飼えないよ」

今、同じ立場になって、やっと両親の気持ちがわかりました。当時、いつ日本に帰ることになるか分からなかったからです。でも、「君は自分の部屋の掃除もできないのに、犬の面倒なんかみれるのかい? パパは絶対手伝わないよ。もし、一か月、毎日、自分の部屋の掃除が出来たなら飼ってあげてもいいよ」と言って、諦めさせたのです。

 ぼくがシングルファザーになった時、息子が言いました。「パパ、でもやっぱり。犬を飼いたい」これには涙が出そうになりました。その時、彼は小学校の5年生だったのです。ぼくも犬を飼いたいと本気で思いました。

 「そうだね、今なら、育てられるかもしれないね。パパは時間があるし」

 でも、結局、犬を飼うことはありませんでした。なぜかというと、子育てで手一杯になったからです。ある日、彼が中学生になったころ、「犬が欲しかったのは、兄弟がいないからなんだよ。そして、パリに親戚もいないでしょ? 寂しかったから」と言いました。その子ももう高校生です。光陰矢の如し、です。

 もう、犬のことは話題に出ません。可愛い犬を公園で見かけても、何も言いません。でも、時々、息子の横に幻のワンちゃんがいるような気がすることがあります。

「三つ子ちゃん×辻仁成の子育てエッセー」一覧はこちら

作者プロフィル

 ニコル・ランベール(Nicole Lambert)

 1948年、パリ生まれ。美術学校を経てモデルとしてのキャリアをスタートし、その後、子供服やおもちゃのデザイナーとして働き始める。雑誌向けにイラストを描くなかで、1983年に『マダム・フィガロ』で「三つ子ちゃん(Les Triples)」の連載を開始。同作は人気を集め、世界で翻訳・販売される。日本ではフランス国外で初めて書籍化された。テレビ化もされ、近年は世代を超えて親しまれている。一男一女の母。

 辻 仁成(Tsuji Hitonari)

 1959年、東京生まれ、パリ在住。作家。89年「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞。97年「海峡の光」で芥川賞、99年「白仏」のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。長男が小学5年生の頃から、シングルファーザーとしてパリで子育てを行う。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Webマガジン「Design Stories」主宰。

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