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Friday, March 20, 2020

「三つの魂が地獄に落ちるー」呪われた予言の謎を、天才的頭脳が解き明かす!/神永学『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言』試し読み③ | 心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言 | 「試し読み(本・小説)」 - カドブン

死者の魂を見ることができる名探偵・斉藤八雲が、連続殺人事件の謎に挑む!
心霊探偵八雲シリーズとして、アニメ化もされている超人気作の外伝『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言』 が3月24日に発売されます。
外伝は一話完結の絶品ミステリ。本編を読んだことがない方にも楽しんでいただけます。まずは、冒頭の40ページを発売に先駆けてお届け!

>>前話を読む

 ◆ ◆ ◆

「え?」
 思わず声が出た。
 ここに書かれている文章は、記事の内容に合致している。しかも、天使真冬が予知をしたのは、事故が起こる三ヶ月も前のことだ。
「これって……」
 晴香は、スマホの画面を八雲に見せながら口にする。
 少しは驚くかと思ったが、八雲は、ふんっと鼻を鳴らしていつしゆうした。
「まさか、それで予言が当たったなんて思ってないだろうな」
「でも……」
「予言なんて、あり得ない。ほんのさいなことで、未来は変わってしまう。正確に、それを予測するなんて神だって不可能だ」
「少しくらい、可能性はないの?」
「ない。仮に未来を予知できたとしても、それを観測してしまった段階で、未来は変わってしまう」
「何が何だかさっぱり分からない」
 晴香が主張すると、八雲はこれみよがしにため息を吐いた。
「君は、相変わらずのアホだな」
 こういう言い方をされると、ついつい反論したくなってしまう。
「アホで悪かったわね。不可能だって言っても、現にこの事故の予言は当たってるんじゃないの?」
「こんなものは、偶然に過ぎない。いや、正確には偶然ですらないだろうな」
「どういうこと?」
「カラクリは簡単だ。交通事故が、年間どれだけ起きているか知っているか?」
「それは……」
 具体的な数字は把握していないが、数千件の単位で発生していることは確かだ。
あらかじめ、事故で二人が死ぬことを暗示した文章を書いておく。その上で、あとになって同じ数の人が死んだ事故を見つけてきて、的中したと言っているに過ぎない。交通事故は、日常茶飯事だ。放っておいても、いつかは二人が死亡する事故は起きるだろう」
「そうだね……」
 いつかは、必ず起こることを、それっぽく書いておくことで、あたかも自分の予言が的中したように演出した──ということだろう。
「さっきの予言の十字架は、交差点を暗示しているので、当たったと錯覚してしまうが、交通事故の大半は交差点で起きている」
「確かに」
「一通り目を通してみたが、どれも似たり寄ったりだ。的中していない予言が、幾つもあるが、それについては、時期を明言しないことで誤魔化している」
「期限を設けていないのも、外れたんじゃなくて、これから的中するって言い張ることができるからなのね」
 晴香が口にすると、八雲は「正解」と指を鳴らしながら言った。
「かつてノストラダムスの予言というやつがあっただろ」
「ああ。確か、1999年に世界が滅亡するって予言した人だよね」
「そうだ。1999年に、何も起きなかったことは、言うまでもないだろ」
「そうだね」
 今、晴香たちが生きているのだから、世界が滅亡しなかったのは事実だが、当時は結構な騒ぎになっていた。
「そもそも、ノストラダムスの予言は詩の形式で書かれていて、明確な表現は一切使われていない。有名な1999年の予言にしても、空から恐怖の大王が来るだろう。アンゴルモアの大王をよみがえらせ、マルスの前後に首尾よく支配する──という内容だったんだ」
「全然意味が分からない」
「そうだ。あいまいな表現に終始することで、あとからどうとでも解釈できるようにしてある」
「で、どうして、世界が滅亡するなんて予言になっちゃったの?」
「この予言だけ、期限が設けられていたんだ。それが、終末思想と重なって、世界が滅亡するという解釈をした人がいた。それが爆発的に広まってしまったというわけだ」
「そ、そうなんだ」
「ノストラダムスの他の予言の中には、的中したものもあると言われているが、さっき言ったように、解釈次第で、どうとでもなる代物だ。あとからこじつければ、何とでも言える」
「天使真冬って人も、同じってこと?」
「まあ、そういうことだ」
 ──なるほど。
 さっきの天使真冬の予言も、交通事故を匂わす文章を予め、それっぽく書いておいて、あとから類似する事故が起きたときに、的中したと宣言すればいいのだ。
「そう考えると、噓っぽいね」
「ぽいなんてもんじゃない。完全な創作だ。ついでに言うと、この天使真冬のプロフィールにも問題がある」
「どういうこと?」
「彼女のプロフィールには、事故に遭ってこんすい状態に陥ってから、未来が見えるようになった──と書かれているな」
「うん」
 プロフィール欄には、確かにその旨が記載されている。
「これがおかしい」
「どうおかしいの?」
「彼女は、預言者を名乗っている。予言をするなら預言者ではなく、予言者だ」
「違うの?」
「全然違う。預言者とは、神託を預かり、それを伝える役割を担っている者のことだ。だから、預かるという字を使う。自分の力で、未来を予知しているなら、予言者でなければならない」
「へぇ」
 予言者と預言者が違うということまで思考がいかなかった。
 この天使真冬という預言者が、さんくさいことは分かったが、すっかり話がれてしまっている。
 そもそもの問題は、さっきの大地奈津実という女性が、どんなトラブルを持ち込んだのか──だ。
 晴香がそのことを問うと、八雲が心底嫌そうな顔をした。
「君は、ぼくが訳もなく、こんな話をしたと思っているのか?」
 ──思わない。
 だからこそ、どうして預言者の話が出てきたのか、その理由をたずねているのだ。晴香が、それを主張すると、八雲はせきばらいをしてから話を再開した。
「彼女は、最近、幽霊の存在に悩まされているらしい」
「どんな?」
 幽霊に悩まされているといっても、色々とある。
 起きている現象によって、その深刻度なども変わってくるはずだ。
「彼女は、あるペンションでバイトをしているらしいんだが、そこで、人の気配を感じたり、ラップ音がしたり。実際に、幽霊を見たという宿泊客もいるらしい」
「もしかして、さっきの奈津実さんに幽霊がいているとか?」
 晴香は推測を口にした。
 これまでの経験から、依頼者自身に幽霊がひようしているというケースは何度もあった。死者の魂を見ることができる八雲なら、すでにその判別がついているはずだ。
「いや。さっき見た感じでは、彼女の近くに幽霊はいない」
 八雲が小さく首を左右に振る。
「じゃあ、勘違いってこと?」
「君は、相変わらず学習しないな。だから、成長しないんだ」
 八雲が、汚いものでも見るような目をした。
 こういう態度を取られると、さすがにむっとする。
「私だって、それなりに学習しています」
「だったら分かるだろ。ぼくは、さっき見た感じでは──と言ったんだ」
 ──ああ。そういうことか。
 ようやく、晴香も八雲が何を言わんとしているのか納得した。
 あくまで現段階では、近くに幽霊がいないというだけだ。そもそも、奈津実が心霊現象を体験したのは、バイト先のペンションだ。幽霊がいないと判断するのは、時期尚早というわけだ。
「その心霊現象が、予言とどういう関係があるの?」
 それが一番の謎だ。話を聞く限り、予言と幽霊は無関係に思える。
 晴香の問いに、八雲は一呼吸置いてから話を始めた。
「さっきも言ったが、彼女がバイトをしているのはペンションだ。隣りの県にあるやまあいくろさわ湖の湖畔だそうだ」
「黒沢湖?」
 聞いたことのない名前だ。
「まあ、あまり広くはないし、特に見るべきもののない場所だから、知らなくても当然かもしれないな。ぼく自身、さっき知ったばかりだ」
「ペンションの場所が、どう関係するの?」
「天使真冬が直近に書き記した予言を見てみろ」
 言われて、改めて天使真冬の予言に目を向ける。

 七の月の最後の日──。
 緑に囲まれた、黒き水。赤い三角の下、過去の罪が暴かれる。
 悔い改めなければ、三つの魂が地獄に落ちる。

「もしかして──」
 晴香が驚きとともに口にすると、八雲が大きくうなずいた。

(第4回へつづく)



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https://www.kadokawa.co.jp/product/321910000655/


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