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Monday, November 22, 2021

8コアRyzenを載せた小型PC「MINISFORUM EliteMini HM90」をレビュー。高性能だが静かに動作する優れた設計が魅力 - PC Watch

Ryzen 9 4900HをAPUとして搭載する高性能な小型PC「EliteMini HM90」

 MINISFORUMが12月より出荷する「EliteMini HM90」は、AMDのノートPC向けAPU「Ryzen 9 4900H」を採用する小型PCだ。同社のEliteMiniシリーズとよく似たコンパクトで薄型の筐体を採用しており、リビングなどに設置しても目立たず気軽に利用できる。

 小型PCらしからぬ大型のCPUクーラーを内蔵しており、高性能だが発熱も大きいAPUをしっかり冷却し、静かに利用できることもアピールポイントだ。今回は、この高性能なAPUを搭載する小型PCの実力を検証していこう。

風通しのよいデザインの筐体を採用

 EliteMini HM90が搭載するRyzen 9 4900Hは、AMDのノートPC向けAPUの中ではハイエンドに近いモデルで、8コア16スレッドに対応する。

 CPUコアは最新世代と比べると1世代古い「Zen 2」だが、動作クロックはノートPC向けよりもデスクトップ向けのAPUに近いスペックだ。MINISFORUMの小型PCの中では、高性能モデルとして位置付けられる。

 内蔵するメモリやストレージの容量によって3モデル用意しており、メモリやストレージを搭載しないもっとも低価格でメモリ、SSD、OSが付かないベアボーンPCなら7万3,590円。現在は予約販売中で、直販サイト経由なら55,590円で購入できる。このクラスのAPUを搭載するベアボーンPCとしてはかなり安く、値頃感がある。メモリやSSDを内蔵するモデルには、Windows 10 Proがインストールされている。

【表1】製品のスペック
MINISFORUM EliteMini HM90
OS なし Windows 10 Pro 64bit版
CPU(最大動作クロック) Ryzen 9 4900H(8コア16スレッド)
搭載メモリ(空きスロット、最大) なし(2基、64GB) DDR4-3200 SO-DIMM 16GB(なし、64GB) DDR4-3200 SO-DIMM 32GB(なし、64GB)
ストレージ(インターフェイス) なし 512GB(PCIe 3.0 x4) 512GB(PCIe 3.0 x4)
拡張ベイ 2.5インチシャドー×2
通信機能 Wi-Fi 6、Bluetooth 5.1
主なインターフェイス USB 3.0 Type-C(DisplayPort対応)、USB 3.1×2、USB 3.0×4、2.5Gigabit Ethernet、Gigabit Ethernet、DisplayPort、HDMI
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) 149.6×149.6×55.5mm
重量 820g
直販価格 7万3,590円 9万9,590円 11万3,590円

 筐体サイズは幅と奥行きが149.6mm、厚みは55.5mm。同社の「EliteMini TL50」や「EliteMini HM80」など、同社の小型PCとよく似たサイズ感の筐体を採用する。フレームの素材に熱伝導性の高いアルミ素材を採用し、風通しをよくするためのメッシュ構造を各部に採用していることもあり、見た目の印象はかなり変わっている。

TL50(左)とHM80の天板部分。奥行きや幅は同じだ
高さも55.5mmで同じ
天板や側面に風通しのよいメッシュ構造を採用し、大型のCPUクーラーにしっかりと外気を供給できる

 前述の通りRyzen 9 4900Hは発熱も大きいCPUなので、しっかりとした冷却装置が必要だ。EliteMini HM90では、小型マザーの表面を覆うほどの大きなヒートシンクに、実測値で約8cm径のファンを組み込んだ強力なCPUクーラーを装備している。

 しかもCPUとCPUクーラーの間には、熱伝導性を高めるために液体金属を塗布する。液体金属とは、常温で液体の状態を保つ特殊な金属のことだ。CPUとCPUクーラーの間に塗布する一般的なシリコンタイプのグリスと比べると、熱伝導性は非常に高い。

 大型のCPUクーラーと熱伝導性の高い液体金属に加え、各部にメッシュ構造を採用してエアフローの効率を高め、高性能なAPUをより安全に、そして静かに利用できるようにしているわけだ。

Webサイトで内部の様子を確認できる。マザーボード全面を覆うほど大きなヒートシンクと大きめなファンを装備

 背面の有線LANポートは、2.5Gigabit Ethernet対応ポートが1基、Gigabit Ethernet対応ポートが1基の構成。ディスプレイ出力端子はDisplayPortとHDMIの2系統で、どちらもリフレッシュレート60Hzで4K解像度の出力が可能。このほかにUSB 3.0ポートを4基装備する。

 前面には10Gbps対応のUSB 3.1(USB 3.2 Gen 2)ポートを2基装備するほか、映像出力にも対応するType-Cコネクタがある。EliteMini HM90では、背面に装備する2基のディスプレイ出力端子とこのType-Cを合わせ、3画面のマルチディスプレイ環境を構築できる。複数の液晶ディスプレイを接続し、テレワーク環境の作業効率を高めたいユーザーにも向いている。

前面には電源ボタン、ヘッドフォンとマイク端子、2基のUSB 3.1(USB 3.2 Gen 2)ポート、DisplayPort Alternate対応のType-Cコネクタを装備
背面にはUSB 3.0ポートを4基、DisplayPort、HDMI、有線LANポート、電源供給用のコネクタ

 高性能なCPUを搭載することもあって、付属するACアダプタは120Wの出力に対応する大きめなものだ。本体がかなりコンパクトなのでここは残念なポイントではあるが、後述するCinebenchの作業中は、消費電力が110~112Wにもなったことを考えると、いたしかたのないところではある。

EliteMini HM90のACアダプタ(右)は、EliteMini TL50用ACアダプタ(60W出力に対応)と比べるとかなり大きめだ

CPUのコア数やスレッド数が重要なテストでライバルを圧倒

 ここからは、基本的なベンチマークテストを通じてEliteMini HM90の実力を検証していこう。比較対象は、CPUに「Core i5-1135G7」を搭載するEliteMini TL50を選んだ。Intelの第11世代Core iシリーズに属するCPUで、4コア8スレッドに対応するミドルレンジのCPUだ。

 基本的にはノートPC向けのCPUなので、一般的なA4版ノートPCやモバイルノートPCで採用されることが多い。また液晶一体型PCや、EliteMini TL50のような小型PCでも採用例が多い。こうした一般的なPCと比べた場合に、EliteMini HM90がどういう位置付けにあるのかが分かる。

【表2】ベンチマーク結果
EliteMini HM90 EliteMini TL50
PCMark 10 Extended 2.1.2531
PCMark 10 Extended score 4,663 4,332
Essentials 9,494 9,188
App Start-up score 11,932 11,312
Video Conferencing score 8,461 7,735
Web Browsing score 8,478 8,867
Productivity 7,898 6,236
Spreadsheets score 9,568 5,598
Writing score 6,521 6,947
Digital Content Creation 6,382 4,636
Photo Editing score 9,573 6,777
Rendering and Visualization score 6,440 2,925
Video Editting score 4,218 5,029
Gaming 2,672 3,586
Graphics score 3,463 4,745
Physics score 20,363 13,157
Combined score 1,135 1,588
3DMark v2.21.7309
Time Spy 1,280 1,533
Fire Strike 3,242 4,277
Night Raid 14,172 16,626
Cinebench R23.0
CPU 11,351 pts 5,362 pts
CPU(Single Core) 1,291 pts 1,366 pts
TMPGEnc Video Mastering Works 7
※フルHDで15~16Mbpsの約3分の動画を、H264/AVCとH.265/HEVC形式で圧縮
H.264/AVC 1:53 4:52
H.264/AVC(Video Coding Engine/Quick Sync Video有効) 0:43 0:42
H.265/HEVC 4:13 8:00
H265/HEVC(Video Coding Engine/Quick Sync Video有効) 0:40 0:50
Crystal Disk Mark 8.0.4
Q8T1 シーケンシャルリード 2,492 MB/s 1,985.62 MB/s
Q8T1 シーケンシャルライト 1,207.35 MB/s 966.4 MB/s
Q1T1 シーケンシャルリード 820.32 MB/s 1093.41 MB/s
Q1T1 シーケンシャルライト 1,178.93 MB/s 971.22 MB/s
Q32T16 4Kランダムリード 552.39 MB/s 625.34 MB/s
Q32T16 4K ランダムライト 366.1 MB/s 608.24 MB/s
Q1T1 4Kランダムリード 58 MB/s 48.73 MB/s
Q1T1 4K ランダムライト 201.69 MB/s 274.43 MB/s

 まずは一般的によく利用されるアプリを使い、その使用感を比較できる「PCMark 10」のスコアを見てみよう。全体的な傾向としてEliteMini HM90のスコアが上回っており、その性能の高さが伺える。ただスコアにはそれほど大きな違いはなく、日常的な使用感に影響するほどではない。

 なおこの4,000台後半というスコアは、APU/CPU内蔵GPUを利用するデスクトップPCに匹敵する。EliteMini HM90はノートPC向けのAPUを搭載するが、デスクトップPCと比べてもまったく遜色はないレベルの性能を発揮できるということだ。

 PCゲームの3Dグラフィックスに関する描画性能を計測できる「3DMark」では、EliteMini TL50のほうが性能が高かった。EliteMini TL50が搭載する「Core i5-1135G7」では、「Intel Iris Xe Graphics」という内蔵GPUを搭載しており、Ryzen 9 4900Hが搭載する内蔵GPUよりも若干性能が高いことを示している。

 一方でCPUの性能を極限まで引き出すテストの場合、Ryzen 9 4900Hを搭載するEliteMini HM90の優位性は明確になる。今回は精細なCGのレンダリング速度をスコアで計測できる「Cinebench」と、動画のエンコード速度を計測できる「TMPGEnc Video Mastering Works 7」を試したが、いずれもEliteMini HM90が圧倒的な勝利を収めた。

 EliteMini HM90が搭載するRyzen 9 4900Hは8コア16スレッド対応であり、EliteMini TL50が搭載するCore i5-1135G7は4コア8スレッドに対応する。これだけコア数やスレッド数が違えば、こうした結果になるのは仕方がない。

 今回のようにノートPC向けのCPUだと、RyzenシリーズはCoreシリーズよりもコア数やスレッド数が多く、今回と同じようなテスト結果になる傾向がある。

 CrystalDiskMarkでストレージの性能を計測したのが、下の画像だ。Ryzen 9 4900HはPCI Express 3.0までの対応であり、NVMe対応SSDとしては中堅クラスの性能と言ってよいだろう。Windows 10やインストールしたアプリの起動や操作は快適だし、基本的な操作でもたつく場面はまったく見られない。

PCI Express 3.0 x4対応のM.2対応SSDを搭載するPCとしてはスタンダードなリード/ライト性能

内部へのアクセスは容易、メモリとストレージは拡張しやすい

 4本のネジで固定された底面のパネルを外すと、内部にアクセスできる。今回比較対象としたEliteMini TL50など、グレーを基調としたデザインの同社製小型PCでも同じような構造を採用しているが、これらと比べると底面を固定しているプラスチックのフックが少なくなっており、より簡単に底面を外せるようになっている。

底面のネジを外すと、このように底面が外せる

 底面からはメモリスロットやM.2スロットにアクセスできる。必要に応じて換装し、パワーアップするのも容易だ。また底面には、2台までの2.5インチSSDを組み込むスペースを用意している。低価格で購入しやすい2.5インチSSDやHDDをここに増設して、容量を補うのもよいだろう。

 いつもなら、ここでマザーボードも外してCPUクーラーの状況を確認してみたくなるところだ。しかしEliteMini HM90では、マザーボードを固定している4本のネジを外しても、マザーボードから側面方向に出ているポートがフレームから外れず、マザーボードを取り出せない。

 メモリやストレージを換装したり追加する場合は、メモリスロットとM.2スロットにアクセスできれば十分だ。ユーザーとしてもムリをしてマザーボード部分を取り出す意味もないわけで、今回の分解作業はここまでにしておこう。

底面からメモリスロットやM.2スロットに簡単にアクセスできる
底面には2.5インチSSDやHDDを2台組み込めるマウンタがある
SSDには小さなヒートシンクがゴムの輪で固定されていた

 ここまで見てきた通り、EliteMini HM90はコンパクトで置き場所に困らない筐体を採用しながらも、デスクトップPCに勝るとも劣らない性能を兼ね備える。拡張性も優れており、自分の好きなようにメモリ容量やストレージを追加できるのも便利だ。

 個人的には、動作音の小ささにも驚いた。WordやExcelでの軽作業や、Webブラウザでの情報収集程度なら、耳を筐体に近付けないと動作音はほぼないと言ってよい状態だ。

 高性能なCPUやAPUを搭載する小型PCでは、ファンの回転音が気になることも多い。しかしEliteMini HM90では、PCゲームや各種ベンチマークテストなど、負荷の高い状況でなければ動作音はほぼ気にならない。

 Cinebenchなど負荷の高い状況ではAPUの温度は89~93℃になり、それなりにファンの回転数は上がる。しかしテストが終わればすぐにAPUの温度は下がり、ファンの回転数や動作音も低下する。

 こうした「静かさ」は、液体金属製のグリスや大型のCPUクーラー、通気性の高いメッシュ構造の筐体など、様々な要素を組み合わせて実現したものであり、EliteMini HM90の魅力の一つと言ってよいだろう。

 リビングで大画面TVと組み合わせて使うもよし、軽作業中心ならメインPCとして使っても十分過ぎる性能だ。またこの本体だけを持ち歩き、ホテルの大画面TVとHDMIで接続してテレワーク!というのも夢がある。アイデア次第で使い方は無限大だ。

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