◆わたしの絵本
◆300文字小説 川又千秋監修
[雲に乗ってみたい] 静岡県磐田市・パート・51歳 鈴木知恵美
「あの雲に乗ってみたいなあ」
娘が言った。
空なんて、いつでも見られるのに、久しぶりに空を見た気がした。
青い空にフカフカの白い綿みたいな雲が浮かんでいる。
「そうだね! ママも乗りたいよ」
白い雲に乗ってる娘と私を想像してみた。トランポリンみたいに跳ねてみたり、空から見る景色を楽しんだり。
あの雲に乗ったら、勉強や仕事や家事や、めんどくさいこと全部忘れちゃえそうだよね。
「あ、でも乗れるわけないかあ。あれって水滴だもんね。理科で習った」
中学生になった娘の顔が急に大人びて見え、われに返る。
「塾、送ってくね」
車に乗ろうとして、「また一緒に雲見ようよ」と、口をついて出た。
そんな時間が、これからも大切な気がする。
子どもでも、大人でも、空を見上げて必ず空想したことがあるはずです。その上を駆け回ったり、飛び跳ねたり寝そべったり。雲の正体が分かっても、夢見る気持ちが消えてしまうわけではありません。
[銀婚式の贈り物] 名古屋市天白区・会社員・56歳 伊藤秀司
その日、カレンダーについた丸印を見て気がついた。今日は二十五年目の結婚記念日だ。
あっという間だなと思うのだけど、お互いに真っ黒だった髪に白いものが交じっているのだから、年齢を重ねてきたのは間違いない。
振り返れば、ささいなことで喧嘩(けんか)ばかりしてきた二十五年だ。
「子は鎹(かすがい)」と言うが、娘がいたからこそ、この日を迎えることができたと思う。
その晩の食卓、うれしいことに娘から食事券をプレゼントされた。カタログになっていて好きな店を選べるものだ。食事もそこそこに妻との話し合いが始まる。
私は和食が食べたいと主張するが、妻はフランス料理がいいと言い、いつものごとく喧嘩になる。
それを見た娘は、大きくため息をついた。
毎年、ご夫婦二人だけの思い出を積み重ねて巡ってくる結婚記念日。大きな節目の銀婚式を、こんなふうに祝ってもらえるなんて最高ですね。おなじみの夫婦げんかも、もはや熟練の恒例行事。
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