仕事に慣れてくると、ミスを繰り返してしまったり、マンネリを感じやる気がなくなったりすることがあります。今回は、元インテル株式会社(日本法人)執行役員・板越正彦氏の書籍『部下が自分で考えて動き出す 上司のすごいひと言』(かんき出版)より一部を抜粋し、部下のモチベーションを取り戻す方法について解説します。
最近仕事にマンネリを感じている部下、田中君
【本記事のモデルケース】上司が手を焼く部下:田中君
入社3年目、20代後半の営業マン(法人営業)。仕事をキッチリこなし、上司の指示もきちんと聞く、どこの職場にもいるマジメなタイプ。ただ、与えられた以上の仕事を、自分で考えて行動することはない。プライベートを重視するタイプで、社会貢献に熱心。
能力が高いため、上司はより一層の成長を期待しているが、上司や先輩がちょっと厳しくしかるだけで、「そういうのは僕、苦手なんです」と全力で逃げてしまう。
◆モチベーションが落ちている部下のサポート
仕事は慣れてくると同時に、マンネリとの戦いになります。部下が仕事を覚えて成長するのは上司として嬉しいのですが、その段階でフォローしておかないと、気がつくと部下のモチベーションが落ちていることもあります。
部下が何となく元気がないときや、遅刻やミスが多いな気になる行動が増えたら、質問&リスニングをしてみましょう。
ミスを繰り返さないためには、どうすればいいと思う?
【シーン7】悪い習慣を断ち切るためのひと言「同じミスを繰り返さないためには、どうすればいいと思う?」
上司「田中君、今日、先輩から叱られたそうだね。何かあったのかな①」
部下「ハイ、営業に持っていく資料をまた忘れてしまって……やる気あるのかって佐藤先輩に叱られました」
上司「そうか。自分では、忘れないための対策を何かしているのかな①」
部下「営業に持っていくもののリストを作って、ちゃんと資料も用意はしたんです。でも、朝一の営業だからって家に持って帰って、カバンを替えるときに入れ忘れちゃったみたいで……」
上司「うーん、それは困ったね。取引先も資料がないまま話を聞いても、よくわからなかったんじゃないかな」
部下「ハイ……あとで送ることにしたんですけれど、資料が届いたタイミングで、もう一度電話で説明したほうがいいって先輩にいわれました」
上司「そうだね。今回はそれでいいとして、今後、同じミスを繰り返さないためには、どうすればいいと思う?②」
部下「営業に持って行くカバンは、直前で替えるのはやめようって思いました」
上司「そうだね、それも失敗を防げる方法だね。他にはあるかな②」
部下「後は、資料のデータをタブレットに入れておけば、紙の資料がなくてもその場で見てもらうことができるんじゃないかと思います。ただ、タブレットを忘れたらどうするんだって先輩にいわれました。USBメモリに入れておけば、最悪、クライアントのパソコンを借りられるかもしれません」
上司「なかなか面白いアイデアだね。他にはあるかな②」
部下「うーん、今まで持って行くものリストを1回しかチェックしていなかったので、揃えたときだけじゃなく、出かけるときにもう1回チェックしてみようと思います」
上司「常に二重のバックアップをするのはいいね。それだと忘れ物があっても直前で気づけるから、防げると思う。いつからやってみる?③」
部下「明日から、やってみます」
① 部下を追い詰めない
同じ失敗を繰り返す部下に頭を悩ませている上司も少なくありません。「なんでいつも、同じミスばっかりしているんだ!」と叱り飛ばしても、まったく直らない。イライラが積もり積もると、その部下の姿を見るたびに、小言をいわずにいられなくなったりします。
しかし、かつて「部下を極限まで追い詰める」系だった私も、今ではそのやり方では部下を伸ばすどころか、部下の成長を止めていたのだとわかります。
仕事を甘く見て反省しない部下も確かにいますが、たいていは失敗を繰り返す部下はまじめに取り組んでいます。自分でもどうすればいいのかわからないのに、「何でできないんだ」と問い詰めたら、余計にパニックになるだけなのです。
こういうときに「たるんでるんじゃないか?」「仕事に対する真剣さが足りない」と精神論を説いたところで何にもなりません。部下を追い詰めるのではなく、解決策を導くのが目的なので、叱責から入らないようにしてください。
② アイデアは3回考えてもらう
ミスを繰り返すような悪い習慣を断ち切るためには、自分でどうすればいいのかを考えてもらうしかありません。自分で意識しないことには何をいっても直らないからです。
自分で解決策を考えてもらう場合、私は「他には何か考えられるかな?」を3回繰り返します。そうすると、3回目で出てくる案が一番重要だったり、その人が本当にやりたいことだったりするのです。
ワクワク感を持ってもらうために、「忘れ物をしなくなった自分はどんな感じ?」「周りにどんな声をかけてもらいたい?」と、うまくいったときの自分をイメージしてもらってもいいと思います。具体的な成功イメージを持ってもらうと、より実現しやすくなるという効果もあるのです。
ただ、質問&リスニングに慣れないうちは、部下に3回答えを考えてもらうだけでも十分です。部下がどんな回答をしても批判せず、「いいね」と受け止めると、部下はそれらのアイデアを実行してみようという気になります。
③ スタートする日を決める
部下が解決策を導き出したら、すかさず「いつから始める?」とスタートする日を決めてもらいます。ここで「その方法でやってみたら?」と促すだけでは、行動には結びつかないかもしれません。自分でいつから始めるのかを決めることで、行動に移せるのです。
◆ 質問&リスニングの効果
このやりとりで部下が解決策を導き出しても、同じ失敗を繰り返す人がそのクセを直せるようになるまでには時間がかかりますし、本当に直せるかどうかはわかりません。それでも、自分で考えて行動するうちに、仕事に対する意識は変化するでしょう。それがいずれワクワク感につながっていくのだと考えてください。
能力の問題以前に、ワクワク感につながる気持ちをつぶしてしまっては、部下が伸びる可能性はゼロになってしまいます。まるで小学生を相手にしていると感じるかもしれませんが、今の若い世代はそれぐらいの接し方のほうが親密になれます。
部下を追い詰めずに話を聞く
部下のやる気を取り戻したい…かけるべき言葉は?
【シーン8】やる気を取り戻すためのきっかけをつくるひと言「今のやる気は何%ぐらいだろう?」
上司「田中君、先週頼んでおいた資料はできているかな」
部下「すみません、明日にはできると思います」
上司「今まで期日に遅れることはなかったのに、何かあったのかな①」
部下「はあ、なんだかやる気が起きなくて」
上司「そうなんだ。いつごろからなの?①」
部下「今月に入ってからですかね」
上司「そうか。田中君の今のやる気は何%だろう?②」
部下「やる気ですか? うーん、30%ぐらいですかね」
上司「最初から30%だった?」
部下「いいえ、営業を始めたばかりのころは、80%ぐらいはありました」
上司「どうして30%に下がったんだろう②」
部下「うーん、営業で毎回同じ話をすることに飽きてきたっていうか」
上司「同じことを話していて、相手の反応は毎回同じだったのかな」
部下「いえ、クライアントによって違います。担当者によっても反応は変わるし、それによって結果も違いました」
上司「どうして相手によって反応は変わるんだろう」
部下「それは……担当者の立場も違うし、年齢も性別も違うし、そのときの気分も違うだろうし……」
上司「そうだよね。毎回反応が違うのは面白くないかな③」
部下「ハイ、確かに、そうかもしれません」
上司「これは僕がよくやっていたことなんだけど、クライアントに毎回違う情報を提供したら、喜んでもらえたんだ。もし、そうやって喜んでもらえたら、どう思うだろう③」
部下「それなら、飽きることはないと思います」
① 部下の失敗の理由を聞く
任せていた仕事ができてないとなると、上司は怒りたくなる場面です。でも、怒ることで部下のワクワク感はゼロになり、結局、上司が常にチェックして部下を動かさなければならなくなります。
仕事が間に合わなかった理由を聞いて、モチベーションを上げる方法を探りましょう。
② やる気の度合いを数値化してもらう
上司としては、「やる気が出ないなんて、甘いことをいっている場合じゃないだろ?」と苦言を呈したくなりますが、部下の中で薄れたワクワク感を再び鮮明にさせるのが、質問&リスニングの目的です。
私はこういう場合、ストレートに「やる気は何%ぐらい?」と聞きます。「やる気はあるの?」だと完全に責めている口調になりますが、「何%ぐらい」と割合を聞けば、部下は自分なりに考えて答えられます。
やる気の数値が低い場合は、高かったころの話を聞いてみます。そうすると、以前と今とのギャップを感じ、何が原因なのかを考えやすくなるのです。
田中君のキャリアプランを出して、「3年後にはお客様に信頼される営業マンになりたいっていう目標を立てていたね。今の達成度合いは何%で、100%にするにはどうすればいい?」と聞いてみるのも効果はあります。
③ ワクワクポイントに結びつける
このやりとりで部下にワクワク感を思い出させるには、部下のワクワクポイントを使います。田中君の場合はボランティアが趣味なので、「信頼」「チームワーク」「貢献」といったワクワクポイントを推測できます。そこから、「取引先に喜ばれることをしたらどうか」とワクワクエンジンがかかるような提案をしてみるのです。
◆ 質問&リスニングの効果
何となく取引先に行って、同じ営業トークをしているだけでは、飽きてしまうのは当然です。それを「相手に喜んでもらう」という視点で見られるようになれば、営業トークも工夫するでしょうし、他にも自分にできることはないかと考え出すかもしれません。
部下がワクワクする原点を思い出して、そのために自分は何をすべきなのかを再確認できれば、マンネリから抜け出せるはずです。
板越 正彦
株式会社1on1エンゲージメント研究所 代表取締役
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June 01, 2020 at 03:12AM
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「やる気ですか?うーん、30%」ミス連発の部下に上司は… | 富裕層向け資産防衛メディア - 幻冬舎ゴールドオンライン
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